宇宙世紀事始め Ⅰ その7
「ムンゾに駐留する地球連邦軍」

 U.C.0068年 —— 。
 サイド3、ムンゾ自治共和国に対し、ムンゾ国民による自治を認めた地球連邦ではあったが、手放しの自由を与えたわけではなかった。
各サイドのスペースコロニーには、治安維持を名目とした地球連邦軍の部隊が派遣され、自治権を得たムンゾもまた例外ではなかったからだ。

 ムンゾ国民によって自衛目的で組織された防衛隊は、必然的に駐留する地球連邦軍の風下に立つこととなった。
 公安部門と要人警護などの警備を受け持つムンゾ保安隊は、組織規模が小さいために連邦軍の視界からは外れ、独自の警察組織程度として扱われた。その管轄はムンゾ自治政府の直下に置かれ、騎馬隊なども有していたが、装甲車両類はさほど配備されていない。

 一方、ムンゾ防衛隊の装備品は、地球連邦軍から貸与されて整えられていた。それは各サイドにおいて独自の兵器開発や諸研究、装備品の調達が公然と禁止されていたためでもある。
 連邦軍から貸与された地球連邦製治安維持装甲バスや、M62 4輪装甲機動車などはムンゾカラーに塗装し直されて、サイド3の各コロニーにも配備された。ただ、その数とスペックは、防衛隊側からの必要最小限の要求を遙かに下回って、駐留する連邦軍を常に凌駕しない範囲にとどめられた。
 戦車(61式戦車初期2型)、大型戦闘車両(RTX-65 ガンタン初期型)のような重火器を有する装備品は、ムンゾへの貸与の埒外に置かれ、一方で、コロニーに駐留する連邦軍部隊に優先的に配備された。
 連邦軍を脅かさない程度の軍備しか認められないのが、各コロニーの防衛隊の実情であり、防衛隊に志願したものの、連邦軍駐屯部隊の指揮下に入ることをよしとしない者達は退役していったと言われている。

 U.C.0068年当時 —— 。
 後年の一年戦争で活躍する機動兵器(モビルスーツ)によく似た装軌車タイプの大型戦闘車両が登場している。
 先述したRTX-65 ガンタンク初期型である。

 ムンゾにも配備されていたガンタンク初期型は、履帯を装備し、整地や荒地の走破能力が高く、かつ整地で高速走行も可能である。さらに両肩に大口径砲、両腕に対地対空戦闘に対応したマニピュレーター装着型4連装機関砲などの重火器を装備していた。
 全高は13.1m。一般的な61式戦車初期2型の3倍余りの高さを持った圧倒的な存在感で、各コロニーの治安維持目的というよりは、連邦軍に対するコロニー側の反抗の目を摘み取る効果を期待されていたものといえる。しかしそれでも、のちに開発され、一年戦争の帰趨を決する一因を作ったと言われる機動兵器には遠く及ばない性能だったことは否めない。

 その新たな機動兵器は、ミノフスキー理論を応用した超小型融合炉の開発によって実現するが、U.C.0068において、時代はまだ訪れていなかった。
 その登場が遠因となり、数十年余りにわたり宇宙移民を統治し続けた地球連邦の支配体制が大きく揺らぐことになるのだが……。

 それはムンゾ自治共和国が、別の国名を冠する時代の話である —— 。
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