第18回
主題歌

石田 匠


 『機動戦士ガンダム THE ORIGIN Ⅱ 哀しみのアルテイシア』の主題歌として発表された「風よ 0074」。シャアの心情が描写された楽曲を担当するのは、ソロシンガーとして活躍する石田匠さん。最初のガンダムブームをリアルタイムで体験し、ガンダムファンでもある石田さんに、今回の主題歌への思いを語ってもらった。
—— まずは、石田さんの経歴と普段の音楽活動についてお話いただければと思います。
石田 2001年にavex所属のThe Kaleidoscopeというバンドでデビューしました。バンドは解散したのですが、その後は他の方への楽曲提供や自分自身もソロアーティストとして、歌を歌ったり、ライブで弾き語りをしたりという活動しています。
 僕の師匠はアーティストの織田哲郎さんで、音楽的なことは織田さんに教わりながらバンド活動を続けてきました。バンド時代は『ONE PIECE』のエンディング曲を歌わせていただき、その後元MOON CHILDの佐々木收さんとRicken'sというバンドを組んで『アイシールド21』のエンディング曲を歌い、ソロでは『キングダム』のエンディング曲を歌わせてもらうという形で、アニメ関係の楽曲にもいくつか関わって来ました。
—— 今回の『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』(以下、『THE ORIGIN』)第2話の主題歌である「風よ 0074」は、どのような経緯で関わることになったのでしょうか?
石田 『キングダム』の主題歌は、楽曲を提供していただいて、歌唱だけを担当していたのですが、今回も作曲は服部隆之さん、作詞は松井五郎さんの楽曲が元々あって、歌唱だけを担当しています。
 こうした歌唱だけの楽曲は、イメージに合う声のシンガーをコンペで探すということが行われているんですね。今回は、avexさんの方から大人向けの曲として書かれたアニメの主題歌コンペにエントリーをしてもいいかという話を聞かされまして。喜んでエントリーさせていただいたのですが、それが後から『THE ORIGIN』の主題歌だということを聞かされてびっくりしたという感じですね。
—— 1972年生まれということですが、年齢的には小学校の時にガンダムブームを経験した世代ですよね? ガンダムファンではいらっしゃったのですか?
石田 大ファンでした。当時は小学生だったので作品の中身を全部理解できていたわけではないのですが、ガンプラはもちろん、世界観や大人たちが連邦軍とジオン軍でどちらが正しいのか判らない戦いをしているという部分に惹かれて見ていましたね。
 もちろん子供らしく、ガンプラを作って模型用塗料で色を塗ったり、当時剣道をやっていたので竹刀をビーム・サーベルに見立ててガンダム気分を味わったりもしていましたね。そうした流れもあって、ガンプラ35周年のガンプラサポーターズ35ではガンキャノンのカラーリングデザインもやらせてもらいました。
—— ガンダムファンという立場から、作品に関わることになった感想はいかがでしたか?
石田 とても光栄ですね。本当に光栄という言葉に尽きます。ファンという立場から言えば、ガンダムに関われてラッキーという思いはすごく強いのですが、一方でちゃんと仕事をしなくちゃならないなという思いもありましたね。コアなファンも多い作品ですし、あまり考え過ぎるとプレッシャーになるなとも思ったので、そのあたりのバランスどりが大変でした。
—— 『THE ORIGIN』のコミックスは読まれていましたか?
石田 読んでいました。本当に面白い作品ですよね。シャアはアニメではずっと仮面を被っていて、彼の目はあまり見ることはなかったのですが、『THE ORIGIN』に関しては、「彼がなぜシャアになったのか?」といういきさつに加えて、彼の心を語る「目」を見ることができるという部分がすごく興味深かったです。さらに、大事な台詞やシーンをアニメの『機動戦士ガンダム』を踏襲しながらも、ちょっと違ったタッチで格好良く描かれているのも良かったです。政治的な部分も今のご時世を鑑みながら読むこともできるし、第二次世界大戦の戦時中や戦前という状況を感じながら描かれているようにも読めるというところも好きですね。物語も整理されていて読みやすかったので、ファンとしてずっと読み続けていました。
—— 『機動戦士ガンダム』は、石田さんと同世代のファンも多いですからね。
石田 そうですね。今回の主題歌は、同じ世代の方に対しても共感してもらいたいという部分もあります。ボーカルとして今西(隆志)監督に選んでいただいたのですが、監督からは最初に「ダークヒーローとしてのシャアを意識して欲しい」と言われたんです。勧善懲悪というシンプルな図式ではないストーリーに、年齢的な部分含めて紆余曲折を経て来た僕の声がマッチしたのかもしれません。
—— レコーディングまではどのように作業されたのですか?
石田 楽曲をいただいた後、自宅でキーを決めてメロディー譜に忠実に歌ってみた仮歌を今西監督に送って聞いてもらいました。あまり温度感を出していない状態だったのですが、それについて今西監督からは「もうちょっと荒ぶった感じが欲しいです」というコメントをいただきまして。そこで、実際のレコーディングまでの間に、「今日はこういうテイクで歌ってみよう」という形でいくつかのパターンを練習して当日に臨みました。
 服部さんや今西監督とはレコーディングの当日に始めてお会いするという形だったので、そこでどれだけのパフォーマンスができるかという大人の勝負という感じでしたね。
—— 「荒ぶった感じ」というオーダーにはどう応えましたか?
石田 曲がマイナーキーなのでダークなイメージで、音もとても低く、歌詞に関しても台詞まわし的な感じになっているんです。歌詞の内容も、劇中の状況を言い得て要約しているので省くこともできない。サビの音も相対的に高くないので、そうした楽曲を停滞感なく聴かせるにはどういうリズムで持って行くべきかで苦労しました。
 抑えているところをキッチリと歌うとリズム感が出ないし、聞いている人も状況が流れていってしまうので、ブレスを含めて少しずつ荒ぶった雰囲気をだしつつ、最後の繰り返しで上げていく劇場型というようなイメージで歌うようにしました。自分でも集中して歌えるのは3回か4回だと思っていたので、何度か調整したあとに実際の歌入れをやっていきました。
—— やはり、ご自身で作られる曲に比べると難しいですか?
石田 自分の曲は諸々変更も可能なので気が楽なんですよね。でも、他の方が作った曲は、楽曲への理解力が求められますし、さらに現場の美意識が高ければ高いほど、どう歌い上げていくかというところが重要になるので、大変ですね。
—— 歌うにあたっては、やはりシャアというキャラクターを意識されましたか?
石田 歌詞は、漫画原作のシャアの心理をそのまま書かれているようなものですからね。(松井)五郎さんはすごいなと思いました。今西監督を含め、皆さんが「シャアの心理を歌ったもの」と思っているわけですから、本当はシャアの声で歌われたほうが良いのかなとも思いましたね。でも、ここは歌としての役割もありますから、そこを任された身としてきっちりとやらせてもらいました。
—— ちなみに、石田さんはシャアというキャラクターをどういう人物だと思われていますか?
石田 カッコイイですよね。自分のポテンシャルを最大限に引き出したいという欲望と、母から引き剥がされて愛を受け入れられなかったという思いが合致した時に見せる鬼気迫るような部分は、男としてはやはり憧れますね。目的のために自分のポテンシャルを発揮する狂気じみた行動は、男としては怖いけど興味があるという感じですね。IQや血筋を含めて常人よりもスペックが高いというところも魅力ですね。次元の違うスーパーダークヒーローというか。でも、実際になりたいと思うのは、泥臭くて人間臭いランバ・ラルのような人ですけどね(笑)。
 好きなキャラクターとなると、カイ・シデンのような挫折したりする人間臭い人に惹かれます。その他、黒い三連星とかドズル・ザビとか、『THE ORIGIN』には人間味溢れるキャラクターが多いのがいいですよね。
—— では、最後に作品を楽しみにしているファンにメッセージをお願いします。
石田 エンドロールでこの「風よ 0074」を聞くと、ゾクゾクとする部分があるような曲になっていると思います。ぜひイベント上映に来ていただいて聞いてもらい、劇場からの帰り道では、この歌を口ずさんでシャアの気分を味わっていってもらえればと思います。

 次回のリレーインタビューも歌手の方、ハモンがクラブ・エデンで歌唱する「By Your Side」を歌われた澤田かおりさんにご登場いただきます。
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