第26回
主題歌

柴咲 コウ


 『機動戦士ガンダム THE ORIGIN Ⅲ 暁の蜂起』の主題歌を歌うのは、歌手として、そして女優として活躍中の柴咲コウさん。シャアとセイラの亡き母であるアストライアの想いを歌った『永遠のAstraeaアストライア』は、自身が作詞も担当。これまで一切ガンダム作品に触れてこなかったという柴咲さんは、どのような思いで『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』(以下、『THE ORIGIN』)という作品に向き合って作詞を行ったのか? 曲に込めた思いを語ってもらった。
—— これまで、『機動戦士ガンダム』に対しては、何か触れたりしてきましたか?
柴咲 まったく触れたことはなかったです。もちろん、名前程度は知っていましたが、いわゆる昔のアニメの『機動戦士ガンダム』と『THE ORIGIN』という作品の違いもよく判らなかったので、今回主題歌に関わらせていただくにあたっては、まずはその違いを知るところから入りました。
—— そういったところで、『THE ORIGIN』の主題歌を歌って欲しいという話をされた時は、どのように思われましたか?
柴咲 すごく有名な作品であることは知っていたので、そこに関わらせていただくというのは、単純に嬉しかったです。ただ、正直に言ってしまえば、ガンダム作品を観て育って来ているわけではないので、「そこは大丈夫なのかな?」という懸念はありました。
—— 今回は、そうした不安もあって勉強されたのですよね?
柴咲 作詞するにあたっての資料として、『THE ORIGIN』の漫画原作を読ませていただきましたし、アニメ本編も第2話まで拝見しました。そこでホッとしたのが、今回アニメとして描かれる過去の話がベースになって、その後のメインの話につながっていくということでした。ある意味、話が戦争として深くなっていく前の、シャアとセイラがキャスバルとアルテイシアだった幼い頃の回想のような物語であり、人間ドラマの部分でもよく理解できるところが描かれていたので、詩を書くという部分でも良かったです。
—— 実際に『THE ORIGIN』からガンダム作品に触れてみた感想はいかがでしたか?
柴咲 すごく感動して、すっかりハマってしまいました(笑)。今回、インターネットで『ガンダム』のアニメがどのように始まったのかを調べたりもしながら、作品を理解しようとしたんです。そうした情報と『THE ORIGIN』の漫画原作に触れてみて思ったのは、この作品で描かれていることは、私たちが住んでいる世界でもありえることなんだということでした。現在でも、本当に宇宙への移住計画はあるし、月に都市を造るという話もある。宇宙旅行も現実的な状況になれば、その先には宇宙戦争も起こるかもしれないですからね。そうした、現在から地続きの世界観には感情移入がしやすかったですね。
 『ガンダム』という有名な作品ということで、すごく根強いファンがいらっしゃるので、主題歌を歌わせていただくにあたっては、そこに世界観をまったく知らない人が入ってきても困る……という空気があるんじゃないかと、少しは心配していました。ただ、私自身はこの世界に入りづらいということはなくて、漫画原作を読んだら引き込まれてしまいましたし、これがこの作品の魅力なんだということはすぐに理解できました。すっかりその魅力に引き込まれて、「全部観たいな」と思っています。
—— 『THE ORIGIN』のキャラクターについては、どのように感じましたか?
柴咲 キャラクターの描き方が面白いですよね。例えば、キャスバルに関しては幼少期でも家族に対する愛に関しては、心情などのセリフでまったく描かれていなくて、一瞥する表情だけで語られている感じなので、その心情の奥は読む人の思いに任せているというか、あえて見せていないのだろうなと。安易に「復讐のため」と言わないようにしている……と私が勝手にそういう部分を感じているので、そうした描き方に何かあると思ってしまいますよね。正義と悪の対比はよくありますが、悪には悪の理由が何かあるし、被害者と加害者でも加害者にもそうしなければならない環境があったのではないかとつい考えてしまうわけで、そういう描き方には惹きつけられますね。その一方で、妹のアルテイシアがすごく可愛い(笑)。シビアな話が続くので、女性が出てくるとホッとする部分があって、息詰まる感じが緩和されるなと思いました。中でもお母さんのアストライアは、すごく辛い運命の人だけど、ずっと優雅さを失わない人だということがあって、「こういう女性になれたらいいな」とも思いましたね。
—— そうした感想が、今回の主題歌である『永遠のAstraeaアストライア』の誕生につながっているんでしょうか。作詞に関するオーダーなども含めて教えてください。
柴咲 音楽プロデューサーの藤田(純二)さんから、主題歌のお話をいただいた時には、「これから戦争に巻き込まれる不安感や恐怖に支配される懸念などはまったく入れないで欲しい」と言われました。逆に、小さい時に経験した柔らかい風や、温かいぬくもりみたいなものを描いてほしいとのことでした。前者の様な不安感は、ガンダムファンであれば、彼らがそういうところに巻き込まれていくのは知っているので、それを予期させるものでなくていいと。彼らを見守っている柔らかい視点を入れて欲しいといわれました。そういう柔らかい眼差しや、「あなたを見つめている」という母性を見せて欲しいという要望があったんです。直接的にアストライアの視点で表現して欲しいと言われたわけではないのですが、やはりそうした話を総合すると、彼女について書くのがいいのではないかと思いました。私の感想としても、アストライアは本当に辛い運命を背負ったお母さんだったので、せめて歌の中だけでは幸せになってほしいという思いもありましたね。
—— 作詞するにあたって、モチーフにしたり、イメージしたシーンなどはありますか?
柴咲 漫画原作を読んで、アルテイシアがアストライアに「地球ってどんなところ?」と最後の会話をしている時に、キャスバルはそれを後ろ姿で聞いているというシーンがすごく印象的だったんです。彼らしかいないあの空間だけが、誰にも邪魔されない唯一の幸せな場所なんだなと。外に行くと何かしらのしがらみやイザコザがあるけど、家の中の空間だけは自分でいられるし、素直でいることができる。そうした想いは自分の子供の頃にもあったと思い出すことができて、そういう状況だからこそ心から甘えられるという子供心を描いている気がしました。本当にオアシスのような一幕ですよね。そういうイメージを感じることができるあのシーンがとても心に残っていたので、詩を書くにあたっては、そこを手掛かりに世界観を広げていきました。
—— 確かに、あのシーンは心に残ります。「これで最後のお別れ」となれば、アルテイシアが「朝なんか来なければいいのに」という気持ちも理解できますね。
柴咲 でも、母親としては「そうね」とは言えなくて。希望を忘れさせない、繋げたいという思いもあるでしょうし。だから、旅立つことに背中を押しているように思うんです。やはり、「生まれて来る」ということが一番の奇跡で、争いやイザコザもそこから始まっていると思うと、詩を書く上ではそうした部分を無視することはできなくて。私はまだ結婚もしていないし、母親にもなっていないですが、一種の憧れとして「こういう風にありたいな」という願望を詩には込めています。
—— 総監督の安彦良和さんとは、何かお話をされましたか?
柴咲 レコーディングの際に、少しだけお話をさせていただきました。その時に、作品的に「母性」がキーワードであり、そこを描きたかったという話をされていて、そういう部分を描きたかったとも仰っていました。そういう意味では今回の曲に関しても納得していただけたのかなと思いましたし、方向としては間違ってなかったなと安心しました。
—— 柴咲さんは、ドラマ『アオイホノオ』のエンディング曲の『蒼い星』や映画の『名探偵コナン 異次元の狙撃手』の主題歌『ラブサーチライト』など、原作がある作品を読み込んで作詞されていますが、そうした作詞作業についてはどう思われていますか?
柴咲 私は女優をしているということもあって、やりやすいですね。しかも、本や作品として出来上がっているものを、再構築して自分の解釈としてもう1回書いてみるという感じなので、何もないところから作詞するよりはやりやすいです。全員がそうではないと思いますが、音楽活動を行うアーティストの方々の多くは自分の中から出てくるものを形にするものではないかと思っているんです。私自身は、女優という仕事をしているせいか、本当の自分ではないものを、憑依させてしまえば自分だと思ってしまうので、他のアーティストのような内から生み出すというこだわりはないんです。
 とは言え、全部を取り入れるというよりは、自分のキャパもあるので、短期間に、自分で気になるポイントを深読みしていくというやりかたをしています。今回の『THE ORIGIN』の曲であれば、先ほど言ったベッドでの子守歌のような部分をベースに、どんどん色をつけていくような感じです。白黒で描かれていても、「こんなフワフワな枕で、柔らかいお母さんの腕で眠る」という部分を掘り下げて、一瞬一瞬を切り取っていくという感じです。あとはもう妄想ですね。アストライアとキャスバルとアルテイシアが、無邪気に触れ合っていた頃は、きっとこうだったんだろうと。アストライアの持つその優しさや、つらい時でも前向きにいようとする雰囲気が、彼女自身を少しもの悲しく感じさせるような印象があったので、そういう部分も意識して詩の中に取り込んでいます。
—— 『永遠のAstraeaアストライア』という曲を通して、ご自身として伝えたいと思っていた部分はどこですか?
柴咲 歌いやすい曲でしたね。私にはこういう曲調の方が自分の声に合っているように思えるので、心地良く歌えました。何度も歌っているうちに、作曲を担当された服部隆之さんが、「予想外のアプローチをしてきたので、もう1回歌ってみましょう」と仰ってくださったのが印象的ですね。私もノリノリで歌わせてもらったので、どちらかというと、母親の心情を歌った曲ではあるんですが、歌い方は少女っぽい仕上がりになったかなと思っています。
—— 『THE ORIGIN』で、初めてガンダムに触れたわけですが、どのキャラクターが気に入りましたか?
柴咲 やっぱり、シャアですね。カッコイイです。小さい頃から頭が良くて、そういう「何かをする」という星のもとに生まれているというか。劇中では「悪」として描かれている部分がありますが、単純に悪い人とは思えないというか。やっぱり、信念があるからですかね。世間的な視点から見ると「悪」に見えるだけで、もっと違う遠い世界、神に近いような視点で見ているような感じで、そうした視点から見ると、ある程度の犠牲は仕方がないと思っているのではないかという、何か深い部分があるところに惹かれますね。いろいろと考えてしまいますよね、「自分がこの子の母親だったら、どんな心境なのか」とか、「アストライアが生きていて、彼の活躍を見たら何て思うのか」とか。たらればの話になってしまうわけですが、そこが面白いですよね。無くなったものがあるから補うものが出てくるし、過去には戻れない……そういう部分が本当にカッコイイです。
—— では、最後にファンに向けてメッセージをいただけますか?
柴咲 『THE ORIGIN』という作品を、この曲を含めていろんな方に受け入れてもらえるといいなと思っています。私のようにまったく観たことがない人間でもハマってしまっているので、そういう人がひとりでも多く現れてほしいですね。自信を持って、まだ観ていない人に勧められる作品になっていますので。今回はエンディングで歌詞を字幕で出してもらっているので、作品の一部として楽しんでもらえると嬉しいです。

 リレーインタビュー次回はCGプロデューサーの井上喜一郎さんと岩切泰助さんが登場。CGについてお聞きしたいと思います。

服部隆之 presents GUNDAM THE ORIGIN featuring 柴咲コウ のスペシャルコラボレーションで贈る『機動戦士ガンダム THE ORIGIN III 暁の蜂起』主題歌「永遠のAstraeaアストライア」の劇場限定盤CDが2016年5月21日にリリース。劇場限定盤は、ことぶきつかさ描き下ろしによる、アナログLPサイズ仕様ジャケットで発売。
(※ 劇場限定盤の販売は終了いたしました。)

◆ 『機動戦士ガンダム THE ORIGIN III 暁の蜂起』
主題歌「永遠のAstraeaアストライア

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