第30回
ララァ・スン役

早見 沙織


 シャアを導く存在にして、ニュータイプという存在の象徴として強い印象を残すキャラクター、ララァ・スン。『機動戦士ガンダム THE ORIGIN Ⅳ 運命の前夜』では、シャアとララァの出会いが描かれる。ミステリアスな印象の少女、ララァ役の早見沙織さんは、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』(以下、『THE ORIGIN』)においてシャアと心を通わすララァという役柄をどのように演じたのか? 演技へのアプローチやシャア・アズナブル役の池田秀一さんとのやり取りを中心に話を伺った。
—— ララァ役はオーディションで決まったそうですが、どのような形でオーディションに臨まれましたか?
早見 参考として漫画原作のコミックスを読ませていただいて、その他、資料や設定画をいただいたので、それらを見ながら想像を膨らませました。ララァ役の他に、フラウ・ボゥとゼナ・ミアのオーディションも受けさせていただきました。
—— 結果としてはララァ役に決まるわけですが、オーディションを受けてみた感想はいかがでしたか?
早見 お芝居をするにあたっては、自分自身の経験や感じ方に近い部分があるフラウやゼナのような日常感のあるキャラクターの方に親近感があったのですが、どの役に関してもその役なりの難しさがありました。ララァに関しては、日常からかけ離れたキャラクターで、ミステリアスな雰囲気や独特の空気感を持っているので、それをどう表現したらいいのだろうという部分で、難しさを感じたという印象がありました。
—— ガンダムシリーズには何度か出演されていますが、プライベートでガンダム作品は観たことはありましたか?
早見 世代的には『機動戦士ガンダムSEED』が最初に観たガンダム作品になるので、最初の『機動戦士ガンダム』は細かな部分までは判らないという感じでした。もちろん、作品としての存在は知っていて、テレビ番組などで『機動戦士ガンダム』の1シーンの映像を目にする機会はあったので、そうしたイメージを手掛かりにオーディションを受けさせていただきました。
—— ガンダムシリーズでは、『機動戦士ガンダムAGE』のユリン・ルシェル、『ガンダムビルドファイターズ』のアイラ・ユルキアイネンなど、ある意味ララァからの延長線にあるキャラクターを演じていますが、それらのキャラクターとの違いなどは意識されましたか?
早見 ユリンにしても、アイラにしても、ララァを彷彿とさせるようなシーンもありましたが、世界観も時間軸も違う作品なので、同じようなイメージのキャラクターという意識はせず、新しい作品に参加させていただくという気持ちでした。もちろん、共通軸があるキャラクターではあるかもしれませんが、私個人としては同じ空気感で行こうとか、同じように演じようという考えはまったくありませんでした。
—— 『THE ORIGIN』の漫画原作は読んでみて、どんな感想を持たれましたか?
早見 作品としての伝統感を持ちつつ、作品の中で描かれている世相や状況、環境、世界情勢などは現在の視点から見てもズレていなくて、それこそつい最近発表された作品のように感じました。争いの方向性やそれにまつわる思惑が蠢く感じには、古さみたいなものはまったく感じませんでした。私たちの世代だと、機械同士が戦ったり争いが起こって国同士が戦うというアニメ作品もたくさん観てきていますが、『THE ORIGIN』のベースになった『機動戦士ガンダム』にはその「起源」が描かれているのだなと、読みながら感慨深かったです。
—— 漫画原作を読んだ感想も踏まえて、ララァというキャラクターにはどんな印象を持たれましたか?
早見 漫画原作を読んでいても、特徴的だったり、印象的に描かれることが多いキャラクターだと思いました。今回の第4話に関しても、出番自体はそんなに多くないながらもそのわずかなシーンでララァの存在感が際立つ描写がたくさん入っていたように思います。私自身も、オーディションで受かって「どうやって演じようか?」と悩みつつも準備はしていたのですが、それだけではなく作品に関わった時点でララァという存在に引っ張ってもらったという印象が強いです。
 演じるにあたって、池田(秀一)さんからララァがどんなキャラクターなのかというバックグラウンド的な部分でアドバイスをいただいたりもして、私が自分だけで作ってきたララァから、皆さんのお話を聞いて造り上げていった印象が強いです。ララァは、人の心が判ってしまうからこその恐怖感も持っているので、人に対する接し方の部分では意識を変えています。音響監督の藤野(貞義)さんからは、自分の心を閉ざしている部分も引き出して、いわゆる人見知りを演じるようにというディレクションをいただきました。当初テストで私が演じていたララァは、もっと人当たりが良くて、すんなり打ち解けられそうな印象があったようだったので、スタジオで軌道修正をしていきました。
 私の場合は、自分で作ってきたものよりも、現場でのディスカッションで演技の方向性が出来上がることが多いのですが、今回はとくにその傾向が強かったですし、現場で色々なお話を伺えたことはとても良かったと思っています。
 ララァは最初の登場シーン、中盤のシャアとの出会い、そして後半のシーンと、そのシーンごとに印象が違うので、その雰囲気の違いを表現するのが難しかったです。単なる二面性みたいなものではなく、すこしずつ繊細に変化しているというイメージがありますね。
—— 実際に池田さんと一緒に演じてみた感想はいかがでしたか?
早見 簡単ではなかったですね。感情の機微というか、絶妙な感覚を感じ取らなければならないという思いはありました。シャアとララァの距離感として、近すぎず、だけどお互いに惹かれているし、空気で会話をしているところもあるんですよね。持っている性質や人間性も含めて、2人の「もの言わぬ感」がとても難しかったです。その塩梅を池田さんがとてもやさしく投げかけてくださったので、それによって2人の関係性を表現できたかなと思っています。
 あまりにも有名な作品なので、収録前はプレッシャーも大きくて、とても緊張していたのですが、池田さんから「すごい作品だけど、大したことはないから。だけど、大事にしてね」と言っていただいて。私自身が自分でプレッシャーをかけているところもあったと思うのですが、池田さんの言葉を聞いて必要以上に固くなりすぎずにいたほうが、自分自身の力を発揮していけるかなと思いました。
—— ララァを演じることに関して、周囲の反応はいかがでしたか?
早見 事務所のマネージャーさんもそうですし、現場でご一緒させていただく役者さんなど、ガンダム世代と呼ばれる30代から40代の男性陣からはかなりの反響がありました(笑)。いろんな方々が嬉しそうにガンダムの話をしてくださって、こんな反応は他の作品ではあまりない新鮮な反応ですし、今でもみなさんの心の奥に残っている作品であることを改めて実感しましたね。
—— アフレコ現場の様子はいかがでしたか?
早見 やはり、現場に着いた直後に池田さんが握手をしてくださったのが忘れられないですね。スタジオの席も池田さんがご自身の隣に招いてくださって、古谷(徹)さんに「いつもシャアの隣はララァだからね」と言っていただいたのも嬉しかったです。収録後には飲み会にも参加させていただいて、古谷さんと池田さんの軽妙なやりとりも素敵でした。
 アフレコの時は、私自身が緊張してガチガチだったので、あまり覚えていないのですが、アフレコ終わりでみなさんに気さくに声をかけていただきました。
—— 好きなシーンや印象深いシーンはありますか?
早見 物語のラスト、星を見ているララァのシーンが、とても美しくて素敵だなと思いました。シャアと会話しているのですが、普段は見られないようなシャアの甘くて温かい感じが出ていましたね。お互いのモノローグが調和したともとれるシーンになっている感じで良かったです。収録も、池田さんの最後のセリフが終わったらスタジオ全体から「フゥー!」って声が上がって(笑)。すごくいい空気でしたね。
—— では、最後にファンの皆さんにメッセージをお願いします。
早見 今作からララァ・スン役として関わらせていただくことになりました。今もまだ緊張がありますけれど、これまでのガンダム作品の世界観を大事にしつつ、私自身新たな気持ち、丁寧な気持ちで役に向き合っていきたいという思いで参加させていただきました。漫画原作ファンの方だけでなく、目を見張るような見所満載の作品だと思いますので、ぜひ大きなスクリーンで余すことなく楽しんでいただければと思います。

 リレーインタビュー次回は『機動戦士ガンダム THE ORIGIN Ⅳ 運命の前夜』の主題歌「宇宙そ らの彼方かなたで」を歌う森口博子さんに登場いただきます。
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