第5回
演出

江上 潔


 『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』関係者リレーインタビューの5人目は、演出を担当された江上潔さん。『蒼き流星SPTレイズナー』(85年)で演出デビューを果たして以来、多数の作品を手掛けてきたベテラン演出家の手によって、『THE ORIGIN』のキャラクターたちはどのような演技を見せるのか? 演出的な見所を語ってもらった。
——『機動戦士ガンダムTHE ORGIN』(以下『THE ORIGIN』)に参加した経緯を教えてください。
江上 昨年、『宇宙戦艦ヤマト2199』に演出で参加していたんですが、今西(隆志)さんもCGディレクターとして参加されていて、久しぶりに現場で再会したんです。
 実は、今西さんは僕がサンライズに入社した時の制作進行の先輩でして、つき合いは古いんですね。その後、別のスタジオに入り、経験を積んで『蒼き流星SPTレイズナー』で演出デビューするんですが、僕よりも先に演出デビューしていた今西さんも『レイズナー』に参加していて、一緒に演出していたという時期もありました。今西さんは、制作進行としても演出としても先輩で、いろいろな面で、お手本になるというか、学ばせてもらったことがたくさんあります。
 『ヤマト2199』で再会したのがきっかけになったのだと思いますが、「『THE ORIGIN』の演出をしてくれないか」と言われまして、喜んで、スタッフに加えていただいた次第です。
——過去のガンダム作品にも関わられていますが、ガンダム作品に対する思い入れも深いんでしょうか?
江上 最初の『機動戦士ガンダム』は大学生の頃に観まして、かなり影響を受けてサンライズに入ったクチです。『機動戦士ガンダムZZ』や『機動戦士Vガンダム』にも参加させてもらっています。やはりガンダムというのは、憧れの作品です。今回の『THE ORIGIN』は、安彦(良和)さんが描いたファーストガンダムでもあり、監督が今西さんならば、ぜひやりたいなと思いましたね。
——『機動戦士ガンダム』に影響されたという立場から、今回描かれる過去の物語に関しては、どのような感想を持たれていますか?
江上 コミックの『THE ORIGIN』に関しては、存在は知っていたのですが読んではいませんでした。今回、改めて読んでみると、非常にうまく物語を膨らませていて、違和感を感じるどころか、感動しました。当時、映像ではわずかしか描かれず、観る側も想像するしかなかった出来事を、「こういう成り行きで、こんな関係があったんだ」ときちんと描かれていて、奥行きのある物語を楽しむことができました。
——今回、総監督と絵コンテで安彦さんが、監督として今西さんが参加されています。一般的には「演出とは監督がやるものじゃないの?」と思われている部分もあると思いますので、改めて本作での「演出」としての江上さんのお仕事内容を教えていただけますか?
江上 演出という仕事は、キャラクターにどんな芝居をさせるかということを、より具体的指示するという仕事ですね。どんなアングルで撮り、どんなカットに仕上げていくかを決めるのが役目です。物語のベースとなっているシナリオがあって、映像のベースになる絵コンテ、そして監督の演出があるんですが、そうしたものを、より細かく、具体的にどう描くかを決めなければならないんです。例えば、「向こうから走ってきて殴る」という場合だと、具体的にどんな走り方なのか、どういう目つきと口の開き方をして、どんな風に殴るのか……というものは演出が指示するんです。演出は絵を描きませんが、作画の方に「こういう風に描いてくれ」と指示をします。キャスバルの目のまばたきの回数や仕方、ガンタンクの走りにしても、1コマ1枚の絵で「こんな表情で」とか「ガンタンクの傾きはこれくらいで」、「次の絵ではカメラの位置をここに変えて」というように、具体的な指定や指示を1枚ずつしていき、それを描いてもらうのが仕事ですね。だから、僕の担当した演出カットは、全て僕の指示でできているとも言えます。
 実写映像における、演技プランやカメラプランみたいなものですね。具体的な映像作りの指示は、色あいも含めて全部演出が出しています。そして、それを監督が最終的にチェックして、映像がイメージ通りに仕上がっているか観るわけですね。
 今回は、冒頭のルウム戦役での戦闘シーンを板野(一郎)さんが、その後に始まる本編の演出を僕が担当しています。
——演出をするにあたって、安彦さんや今西さんからはどのような指示がありましたか?
江上 安彦さんとお話をしていると、「アニメのキャラに芝居をさせたい」というように考えている印象がありました。「今回は、登場人物それぞれが、様々なことを考えて、その思いを台詞として話しているので、喋る際の表情の芝居、大人の芝居が重要になってくる。だから、ただ動くのではなくて芝居をしている」というようなことを何度も仰っていました。今回の作品は、そこが一番難しかったですね。また、漫画のコマ割りをどうやって映像のテンポに合わせて表現していくかという部分も非常に苦労したところです。
——キャラクターのこだわった演技に加えて、今回はCGで描かれるメカとの融合という部分でも、演出として苦労している部分はありますか?
江上 クルマも含むメカに関しては、最終的にはCGで描かれていますが、大まかな動きは作画で作っています。メカに関しては、メカ作画監督の鈴木(卓也)さんが描いたものを僕がチェックして、鈴木さんとのやりとりでメカの動きを決めて行きます。そうした作業を経て、CG作業に入ってもらうので、仕上げはCGだけど、「動き」は昔からのアニメのやり方で作られているんです。それによって統一した演出ができるので、違和感のない仕上げになっていると思います。
——全体的に描き込みも多くなっているということでしょうか?
江上 僕自身、キャラクターに芝居というか、何気ない微妙な仕草をさせたいと思っていて、そういう演出をこれまで目差してきたのですが、TVシリーズだとそれをきちんと実現させるのは難しい。でも、今回は安彦さんも同じようなことを考えていらっしゃるので、ぜひ実現したいと思って、作画さんにはいろいろ無理なお願いをしています(笑)。今回の作画スタッフは上手い人ばかりで、難しい要求にしっかりと応えてくれるので、それが素晴らしいですね。
 中でも、キシリアとキャスバルが対峙して話をするシーンは、安彦さんからもかなり注文が入っていて、作画監督の西村(博之)さんにも動きを修正いただき、キシリアの細かい芝居が効いていて、見所のひとつです。ストーリー的にも見せ場ですが、キャラの芝居を楽しむという意味でも、魅力あるシーンだと思います。
——演出する側から見て、演出が難しいキャラクターというのはあったりするのでしょうか?
江上 そういうのはないですね。ただ、やはりキャスバルは気を使った部分はあります。彼は、その時々で子供のような表情をすることもあれば、アルテイシアを見守るいいお兄さんの時もあり、大人のような表情で睨みつけることもある。基本的にはちょっと怖い表情をしているけど、よく見るとほんの一瞬、子供らしい驚きが入って、すぐに元の表情に戻るような芝居もしています。見逃しがちですが演出としては、そういう細かい表情の動きも観てほしいですね。
 あと、仕上がってみて「こんな名優がいたのか!」と思ったのが、ローゼルシアです。高須(美野子)さんという女性のアニメーターが担当したんですが、描かれた芝居が素晴らしかったです。一見嫌なおばちゃんなんですが、スペースノイドの理想や自分がどうやって生きてきたかを内面に秘めた感情を、情熱的に語ってくれる姿を見ると、ああ、彼女も魅力的人なんだなと、思えること、間違いありません。(笑)
——では、最後に本作を楽しみにしているファンに一言お願いします。
江上 演出としては、キャラクターの細かい芝居を観てもらいたいですね。キャスバル、キシリア、ローゼルシアだけではなく、ラルとハモンの大人の関係もかなり凝った表現をしてあります。
 また、作品としては『機動戦士ガンダム』の過去の物語というだけでなく、少年キャスバルの大冒険としても楽しめる内容になっていると思います。メカものと言うよりは名作もののテイストに近い部分もあり、宇宙世紀という歴史の渦の中で翻弄されていく幼い兄妹の物語を、じっくりと楽しめる内容になっていますので、完成を楽しみにしていて下さい。

 リレーインタビュー連載、次回は音楽の服部隆之さんのご登場です。
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