第6回
音楽

服部 隆之


 関係者リレーインタビューの6人目として語っていただくのは、音楽を担当した服部隆之さん。テレビドラマ『HERO』や『王様のレストラン』、『半沢直樹』やNHK大河ドラマ『新選組!』などの音楽を多数手掛けてきた服部さんは、どのようなイメージで『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』の音楽世界を構築していったのか? 音楽制作のこだわりどころを語ってもらった。
——服部さんご自身の『機動戦士ガンダム』という作品に対する印象を教えてください。
服部 僕自身は『ガンダム』の前の『宇宙戦艦ヤマト』世代なんですよ。僕の父も作曲家でして、『ヤマト』の音楽をやっていた宮川泰さんの大親友だったということもあって、ブラスバンドで『ヤマト』の曲はよく演奏したりしていたんですが、『ガンダム』はテレビ放送も観ていなくて。世間的にガンダムが話題になっていた83年から海外留学してしまったというのもあって、今までほとんど触れずに来ました。
 ただ、90年代に留学から帰って来た時に、続編(『機動戦士Zガンダム』、『機動戦士ガンダムZZ』、『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』)の音楽をアニメ畑で活動されていなかった三枝成彰さんがやられているのを知って、「ガンダムという作品は、音楽にもすごく気を遣う作品なんだな」という印象を受けました。
 同業ということで、映画やドラマでどんな作曲家を使っていて、どんな音楽にしているのかすごく気になっていまして、その後のガンダムシリーズに関しても、人選を含めて「音楽に気を遣っている作品」という印象は変わらなかったですね。そうして、音楽的な部分で意識しながらも、今までは関われなかったという感じです。
——今回、オファーを受けてどう思われましたか?
服部 どういう経緯で僕に依頼することが決まったのかは判らないんですが、話をいただいてすごく嬉しかったですね。そうした、音楽に気を遣ってきた作品からお声がけいただいたということは、僕も一人前と認めてもらえたのかなと。だから、二つ返事でやらせていただきたいと返事をしました。
 ただ、作品の理解は低いので、「僕なんかでいいんですか?」と思う部分もあったんですが、知らないことが吉と出る方に賭けましょうというお話でしたね。
——今回は、どのような流れで作業をされているんですか?
服部 お話をいただいたのが去年(2013年)の12月で、録音をしたのが今年の10月です。かなり早い段階から打ち合わせをさせていただいて、他の仕事に比べると時間をかけて作業をさせていただきました。
 3月上旬くらいに今西(隆志)監督とお会いして、世界観のお話を伺いました。その話の中で、「この作品は、自分に向いているな」と思ったんです。というのも、僕のところに来る曲の仕事は、発散感のある音楽にして欲しいというオファーが多いんです。例えば『HERO』や『王様のレストラン』のようなスカッとする感じですね。たまたまそういうのがヒットしたので、そうしたオファーが増えたんですが、実はすごく暗い世界観が好きなんですよ。明るい要素がない状況に、どっぷりとハマりたいという思いがあるんですが、そういうオファーはなかなかないんですよね。
 その点、今回の『THE ORIGIN』は、全くヒロイックな話はないと監督もおっしゃっていたんですよ。だから、90秒予告の音楽に関してもそうした世界観の話をした結果、とてもダークな印象に仕上がっています。
 語られる話も、大きな戦いに向けた状況ということで、その空気も僕の琴線に触れたというか、大好きなところなんです。今回は、メロディをあまり重視しない、全体のサウンドが持っている音楽が醸し出す雰囲気を重視しつつ、オーダーとしてスピード感が欲しいということで90秒予告の曲は作りました。
 本編の方の曲も、若いキャスバルが悩んだり、屈折していったりという雰囲気と非日常感という部分を重視したサウンド感を心がけました。キャスバルの人生観というか、数奇な運命という部分にスポットを当てて曲を作っています。
 そして、キャスバルのキャラクターと作品の持つダークなイメージをオーバーラップさせるような感じで書いたのがメインテーマとなる曲です。そのテーマ曲は要所要所でかかりますし、聞く人が聞けば「ザ・服部隆之」なのかもしれませんが、映画の『ゴッド・ファーザー』のメインテーマに近い存在感で、世界を俯瞰でみるようなイメージの、いつもの自分の作品にないダークさと重心の低さがあるテーマ曲にしています。
——今西監督や安彦良和総監督から何かオーダーというものはありましたか?
服部 作品自体が、混沌としていて、屈折している。明るい未来が何もないような話をされましたね。それから、シーンのイメージに合わせて「これはドイツ的に」とか、「これはロシア的な感じで」という話はありましたね。連邦軍は、第二次大戦の連合軍的な感じとか。そのあたりの棲み分けは判りやすかったです。
 曲作りに関しては、オーダーというよりは、打ち合わせの回数がすごく多かったです。キャラクターのイメージを掴むために、原作のコミックスも読みましたし、参考用のキャラクター相関図なんかもじっくり見て、頭に入れながらやりましたね。打ち合わせは早い段階でやってしまっていたというのもあるんですが、その後の実際に曲を書くという段階で、身体の中にちゃんと『THE ORIGIN』を入れてからかかりたかったので、「最後にもう1回だけ打ち合わせさせてください」って頼みました。そうやって少しずつ身体に入れてやるのがいいですよね。
——最近はドラマの曲などを書かれることが多いですが、アニメと実写では曲の作り方が違ったりするんでしょうか?
服部 僕の場合はあまり変わらないですね。自分でそういう制限をつけてしまうと、世界が広がらなくなってしまうので、自分の感性のままに感じた通りにストーリーを作っていくことを大事にしています。
 そんな中でも、今回は好きな世界観でやれたのは良かったですね。ただ、曲数もかなり多かったので、書いているうちに段々自分の心の重心も低くなってきちゃって。そうした中で、第2話以降に登場するテアボロ館のスペイン風の曲やテキサス・コロニーのウエスタン風のものを書くとホッとするなと思ったりしたのも印象深いですね。特にテアボロの館の曲は、自分でも気に入っています。
——音楽は第1話、第2話を同時作業でやられたとのことですが、作業を終えてみて、どのような作業が印象深かったですか?
服部 嬉しかったことと言えば、歌が入った曲もやらせてもらえたことですね。劇中でハモンが歌う曲に加えて、エンディングの曲も書かせて欲しいと言ったらやらせていただけて。エンディングの曲の場合、劇判の作家のものとは違うアーティストの曲が使われることも多いですが、今回はその部分も含めたトータライズできるという部分は、作家として非情に痒いところに手が届く感じで満足しています。
 ハモンの曲は、劇判作業としては予告編の次に書かせてもらいました。劇中で、楽器の演奏との絵合わせもあるので、先に作って欲しいといわれまして。ハモンの曲に関しては、安彦先生がイメージをしっかりもっていらして。イントロはドラムで入りたいとか、編成はバーやクラブの歌手なので、4リズムでサックスが入るとかかなり決めていらっしゃって、曲の雰囲気も既成の曲をいくつか提示されたので、それらを参考にしつつ、新しい曲を作りました。
——今回のお仕事は、そうした材料がたくさん提示された中でやれたということですか?
服部 そうですね。かなりしっかりとレクチャーしていただいて、それが全然無駄になっていないという。むしろ、そのレクチャーがなければできなかったと思います。付け焼き刃では絶対にむりでしたね。そうしたことを踏まえながらの作業はすごく楽しかったです。
——では最後に、作品を待っているファンに対して、メッセージをお願いします。
服部 ガンダム作品は、とても作家に気を遣っているプロジェクトというイメージがあると先ほど言いましたが、つまりそれに触れて来たファンの方々も耳が肥えていると思うんです。かなり世界観と相まった聴き方をされると思いますので、そこに作品を提示できるということはやりがいがありましたね。僕の音楽と『THE ORIGIN』の映像を観て、「こう来たか!」って驚いてもらいつつ、腑に落ちてもらいたいと思います。また、過去に渡辺(岳夫)先生や松山(祐士)先生の書かれた、テレビシリーズで使われた曲を、僕が使わせてもらっています。それは、「この曲はあれの!」と判るところもあれば、曲のモチーフを使いながら、自分のテイストでアレンジしているところもあるので、そこもファンの人は楽しんでもらえると思いますし、そうした部分を含めて、今回の音楽をどう楽しんでもらえるか楽しみです。

 リレーインタビュー連載、次回は音響監督の藤野貞義さんのご登場です。
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