第8回
メカニカルデザイン

山根 公利


 今回のリレーインタビューは、『機動戦士ガンダム 第08MS小隊』や『機動戦士ガンダム MS IGLOO』シリーズなどで、宇宙世紀のメカニックにミリタリー的なリアル感を加味して世界観を広げてきた、メカニカルデザイナーの山根公利さん。『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』(以下、『THE ORIGIN』)に登場するメカデザインのこだわりどころなどを語ってもらった。
——『THE ORIGIN』に関わられた経緯を教えてください。
山根 『機動戦士ガンダム MS IGLOO』シリーズや『U.C.HARD GRAPH』でお世話になっていた今西(隆志)監督から呼び出しがあり、タイトルもスタッフも伏せられていて、とりあえず来てくれということで「いつもと何か違うな?」と思って伺ったところ『THE ORIGIN』のアニメ化を進めるので協力してほしいと言われました。今西さんとD.I.D.スタジオとはお付き合いも長く、「今回もよろしくお願いします」といつもの流れで協力していく事になりました。
——すでに『THE ORIGIN』のコミックスなどは読まれていたんですか?
山根 存在は知っていたのですが部分的にしか読んだことがなかったので、作業の最初は作品全部に目を通すことでした。読みながら印象に残ったのは、やはり「過去編」でした。いわゆるファーストガンダムと際立って違うところですから。自分たちの見て来たキャラクターの知らないところを見ることができるという部分がやはり面白かったですね。
——メカデザインに関しては、どのように担当分けをされて、山根さんはどのあたりのメカを担当されているのですか?
山根 D.I.D.スタジオで今西さんの元にメカデザインスタッフとサンライズスタッフで集まって、話し合いでその場で担当分けをしていきました。「何か描きたいものは有りますか?」と今西さんは各スタッフに希望も聞かれていましたが、デザイナー側からは特に意見は出ず、状況的に各人が得意とする分野に自然に決まっていきました。モビルスーツに関しては、『ガンダムエース』の誌上でデザインに関する連載をしているカトキ(ハジメ)さんが、バリエーションに関しても造詣が深いだろうということで決まり、自分はガンタンクやMS以前の機体、装甲車などの車輌、艦船の一部を担当することになりました。
——山根さんと言えば、『機動戦士ガンダム 第08MS小隊』、『機動戦士ガンダムMS IGLOO2 重力戦線』といくつかのガンタンクのデザインを手がけてきたわけですが、今回も担当されているんですね。
山根 戦車=山根みたいな感覚ができあがっていますね(笑)。昔から、タンク系は僕のところに来るんですよね。僕自身も好きなのでいいんですけど(笑)。もちろん、カトキさんにガンタンクをお願いしても良かったんですが、メインのモビルスーツのデザインで忙しくなられると思われるので、フォローするような形ですね。
——ガンタンクに関しては、描くにあたって気を使ったところはありますか?
山根 もともと、大河原(邦男)さんのデザイン画が存在しているんですが、そちらは低重心でどっしりとした印象になっています。それをもとに安彦(良和)さんが誌面で描かれたものは、昔の『機動戦士ガンダム』の作画をされていた頃の雰囲気があって、こちらは重心が高めなんですよね。そこで、その中間を意識して描いているという部分はあります。
 また、今西さんからは過去編に出てくるガンタンクは、ホワイトベースに搭載されている機体とは世代的に違うのではないかという考察があって、そこで初期型のようなものが存在したのではないかという想定のもと、何点かラフデザインを描いて、それを安彦さんにチェックしてもらってデザインを固めていきました。これまで関わってきたガンダム作品は、アニメ用オリジナル企画でした。今回は安彦さんの“漫画原作”があるという部分から始まっているので、細部には自分の戦車的なこだわりがありますが、概ねの部分はコミックスの雰囲気を再現するようにしています。それが、今までのガンダム作品との関わり方の大きな違いですね。
——『THE ORIGIN』のメカデザインということで、気をつけている部分はありますか?
山根 僕自身は、安彦さんの描かれるものは漫画的な雰囲気を強く感じているので、あまりメカが神経質な雰囲気になるのは違うと思っているんです。だから、ディテールに関してはガチガチのものを見せるのではなく、小気味よく適当な密度で入れています。ファーストガンダムのデザインが持っていたような、シルエットでみせられれば理想かと思っています。
 安彦さんの描くメカは、線やディテールで見せるのではなく、フォルムや重量感で魅せている感じ。そこがすごく好きなので、この雰囲気はどうやれば出せるのかと、コミックスを読みながら考えたりしていましたね。だからこそ、できるだけ線が多くならない、シンプルな印象になるように自分は考えています。
 CGを使うという部分では、今回は今西さんがマーキングや注意書きを積極的に入れていきたいということを言われていたので、それらを入れるという部分を意識してディテールを空けて描いたりもしています。
——今回は、車輌系のデザインも相当こだわられているそうですね。
山根 軍用の車輌だけでなく、ダイクンの葬列にザビ家の人たちが乗るリムジンなども担当しています。こだわりと言えばラルの乗る装甲車は、ラルとハモンの雰囲気がイタリアのマフィアやギャング映画みたいな描写になっていると感じるので、それをイメージして小気味良いイタリアの小型車のフォルムも参考にしています。リムジンは当初は作業時間的に過去の作品の設定を流用するという扱いの話もあったのですが、それは少し世界観の再現的に残念なので、こちらから「そこはやらせてください」と(笑)。宇宙世紀のクルマでありながらも1970年代的センスで、現代におけるトヨタの「センチュリー」や「オリジン」的な存在感の再現を目指しました。ザビ家の個性豊かなキャラクターの雰囲気に合わせて国籍を変えてみたりと、自動車のデザインは楽しかったです。
——『THE ORIGIN』ということで、仕事としての特別感はありますか?
山根 今回、仕事を始めるにあたって、最初に今西さんとカトキさんと一緒に、安彦さんと大河原さんと一部屋で顔合わせをして作業に入ったんです。これまでガンダムシリーズに何本も関わって来ましたが、お二人と顔を合わせてから作り始めた作品というのは無いんですよ。そうした形で、ちゃんと会ってご挨拶をしてから始めるということは、いつもとは違う雰囲気を感じましたね。「大作である」と(笑)。独特の緊張感がある始まりだったことは印象深いですね。
 僕自身、その時が安彦さんとお会いするのが初めてだったのですが僕にとっては、ファーストガンダムのお仕事もですが、劇場版『クラッシャージョウ』での印象が強い方で、作画やキャラの動きを美しく見せる、アニメーターとして、また演出家として強い印象がありまして、また『巨神ゴーグ』ではメカデザイナーとしても素晴らしいお仕事をされている。そういう方と、僕が一緒にお仕事をしていいのかというのも当然ありました。
——確かに、いつもとは違った緊張感はありますね。
山根 さらに言うと、ファンのひとたちにとっても、こだわりが強い作品というのもありますよね。ファーストガンダムにこだわりがある人も期待しているし、『THE ORIGIN』という漫画のファンも多い。そのため、アニメ化されると言われた段階で、ファンの映像イメージもある程度固まっていると思うんですよ。そのイメージに対して、どれだけ応えられるのか? 自分でも『THE ORIGIN』がアニメ化するなら、安彦さんの絵がそのまま動いているのが見たいという願望があるくらいですから。そういう期待値も含めて、今までのガンダムシリーズとは違います。
 作品としては、ファーストガンダムファンと『THE ORIGIN』ファンのチェックを、実作業では安彦さんと今西さんのダブルチェックを受けなくてはならないので、そういう意味で責任が重く難しい作業だと実感しています。
 すでにデザインとしてファンのイメージ中に存在しているものをアニメ用に起こし直すという作業は、いわゆるオリジナル作品をやっているベクトルとはまったく違う仕事ですね。
——現在、PVという形で映像の一部を観ることができますが、映像を観られた感想はいかがでしたか?
山根 ガンタンクも良くできていますが、全体的にCGエフェクトもかなり手描きっぽい印象になっていて驚きましたね。CGがアウトラインを鉛筆風に統一しているので、うまくマッチしているように思いました。自分の関わったパートではないんですが、ルウム戦役のシャア専用ザクの動き、サラミスの爆発も安彦さん風に仕上がっていると感じました。
——では最後に、アニメ版『THE ORIGIN』の見所を教えてください。
山根 さっきもお話しましたが、コミックに登場した各プロップ(小道具)にアニメスタッフの見えないこだわりがたくさん入っています。映像用に加えられたディテールがどのように機能しているかドラマを堪能した後、コミックと比べてみるのも一興かと思います。
 自分も、いち安彦良和ファンとして映像の完成を楽しみにしています。

 リレーインタビュー連載、山根さんに続きメカニカルデザインの方にお話を伺います。次回はメカニカルデザインの明貴美加さんのご登場です。
PREVNEXT