第7回
音響監督

藤野 貞義


 『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』(以下、『THE ORIGIN』)の関係者による、リレーインタビュー連載の第7回目は、音響監督を担当した藤野貞義氏。『機動戦士Zガンダム』以降、多くのガンダム作品に音響監督として関ってきたベテラン音響監督は、宇宙世紀の過去の物語をどのように捉えているのか? 第1話のアフレコ現場の様子とともに、作品にかけた思いを語ってもらった。
——まず『THE ORIGIN』という作品に関わったきっかけを教えてください。
藤野 アニメ化が決まったわりと初期の頃に、サンライズの富岡(秀行)さんから話を聞き、それと前後して今西(隆志)さんからも連絡をいただいて正式に参加することになりました。実際に「お願いします」と連絡をいただいてから、動き出すまでには結構時間がかかった印象がありますね。サンライズさんの大作なので、なかなかスムーズにいかないのかなって思いながら、待っていたっていう状態でしょうか。
——具体的には、どのような形で仕事に入られたのですか?
藤野 この作品はコミックが長年連載されていたので、キャラクターや作品自体がどういうものかわかっている状態でしたね。そのせいか、作品がどんな方向で進めるのかイメージはしやすかったです。長い漫画原作の中から、今回はシャアとセイラの原点という、「過去編」から4本の作品で作りたいという話を最初に聞きました。そこで、悩んだのは35年も前にオリジナルのキャラクターを演じてくださった方がいらっしゃって、そのキャラクターも出てくるので、そこをどうしようかということですね。35年間という時間の流れの中で、映像は進化してすごく美しくなっているのですが、作り手側としては昔のイメージが残っているんですよね。だから、そうした部分を尊重しながらも、新作だということから、ある部分は新たにしていきたいっていうのはありましたね。
 また過去編なので、実際本編に映像は出てきていたけど、声が出ないキャラクターもいるわけです。例えば幼い頃のキャスバルや父親のダイクンの声は全くなかったですよね。そういうものが描かれるということで、新たに作り直す上でちょっとほっとしました。全体的に過去のキャラクターがずらっと出てくるっていう作品だと新しいキャストや旧作そのままの人を入れていくのはとても大変なことになるのですが、そうした音のイメージが存在していないけど映像では残っている要素があることで、新しい声が入っても印象の面で少し軟化できて、作品に入りやすくなれるかなと思いましたね。
——映像に合わせて新しく変えるにあたってのクッション的役割ということですね。
藤野 そうですね。まったく新しいキャストとこれまで強いイメージを残しているキャストを一緒にすることで納得出来る部分が多くなるのではないかと。ダイクンの思想っていうものはファーストガンダムのときもところどころ出てきてはいたけど、実際にダイクンの言葉で語られたところはないですよね。そうした新しい要素と、例えば若い頃のデギンが出てきて、ここで新しく声のイメージを作れるのではないかということですね。やっぱり皆さん昔のものを大切にしたいっていう思いも強いですから。
 僕自身が『ガンダム』のシリーズに参加させていただいたのが、『機動戦Zガンダム』からで、その後『機動戦士ガンダムZZ』、『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』、そして今西さんと一緒にやった『機動戦士ガンダム MS IGLOO』シリーズと、宇宙世紀の物語にずっと関わり続けてきたからこそ、今回お声がかかったのではないかと思っています。
——シナリオを読まれて、作品に対してはどのようなイメージを持たれましたか?
藤野 ずっとこの歳まで、35年間描かれているファーストガンダム系のサイドストーリーは追ってきているのですが、例えば連邦を中心に描きつつも、実質はジオンの内情の滅び行く者の悲哀や、そこにそれぞれの思いがあるんだっていうのをずっと描かれてきていますよね。それは。単純な善悪の話だけではなく、もっと深くて壮大なテーマがあるということを示しているわけです。時々『ガンダム』シリーズとして、宇宙世紀のストーリーではない作品にも関わりますが、それらの作品にもそうした要素は生き続けている。そうした、根幹的とも言える要素の、ある意味原点とも言えるキャスバルとアルテイシアの物語が描かれているわけですよね。この過去編のシナリオ4話分を読んだ時に、ファーストの原点としてはすごく納得できましたね。単純な復讐劇とは言いませんが、愛憎うごめく物語を本当にうまく描いている部分を感じました。
——安彦良和総監督や今西監督とは、世界観作りに関してはどのようなお話をされたのですか?
藤野 安彦さんと今西さんとの話でも、「これは、一人の人間の復讐劇を描くけど、そこに収まる話ではない」というようなことは話ました。今となっては、宇宙世紀の世界観が当たり前過ぎて、今では本当に存在した歴史みたいな認識の仕方をしているじゃないですか。そうした、まるで実在するかのように今までいろんな人たちが描いてきた思いが、この世界観にはあって、そういう世界の中で描かれるからこそ、単純な復讐劇にはならないと。そして、そうしたしっかりした作品世界の原点を、より進んだアニメーション技術によって、リアリティあふれる形で見せていこうというようなイメージですよね。
——音響的には他の宇宙世紀作品と地続きになっているようなこともイメージされたりするのですか?
藤野 そうした意識も多少はあります。作品ごとに優劣を付けることはないですが、「こういう作品だから、こういう風にやっていこう」という、作品ごとの意識の差はありますね。作業としてはいつも通りとは言え、今回は『THE ORIGIN』という作品だからこその期待感からくる重圧みたいなものを自分で勝手に感じていた部分は大きいです。
——新たに宇宙世紀を作り込むにあたって、音の部分でも作り込みが深くなっていたりするのでしょうか?
藤野 音の質感がデジタルに変わって、音も空間的な部分で作り込んでいかなければならなくなっていますね。それも、現実の世界にないもので作るということになるわけです。今回、音響効果を担当している西村(睦弘)さんという方は、ファーストで音響効果を担当していた松田(昭彦)さんに師事していた人なんです。その彼が、松田さんを意識しながら音の方で世界観を構築していますので、そのあたりの仕上がりにも期待したいですね。
——今回、発表されたキャストのみなさんのコメントは「緊張した」というものが多かったのですが、アフレコ現場の雰囲気はいかがでしたか?
藤野 キャストのみんなからは、緊張感というか、戸惑いというような空気は感じましたね。やっぱり、ファーストのイメージが強いので、なかなか割り切れない部分もあったんだと思います。そこに関しては、割り切って演じて欲しいと話したりしました。僕自身は、ファーストには映像のシリーズだけじゃなくて、ゲームのムービーなんかでも関わらせてもらっているので、そうした割り切った受け取り方ができるのですが、演じる方はなかなかすんなりと入ってこないんですよね。そういう部分での期待感や重圧をいかに薄めていくかというのが今回は大変でしたね。
——やはり、ファーストの影響というのは大きいわけですね。
藤野 そうですね。みなさんはファーストという作品をしっているわけですから。前に作られた世界にどうしても左右されるし、「自分がやっていいのか?」とか「ここまではできない」という葛藤があるんですよね。そういう意味での難しさはありましたね。「そうしたことは気にしないで、こういうキャラクターを演じてください」という話はするんですが、やっぱり捕らわれたもの、素晴らしいと思っているものからはなかなか脱却できない。
——ファーストに引っ張られてしまうわけですね。
藤野 引っ張られてしまうからと言って、それを真似することができないというのはあると思います。僕自身も、作品を作るときに誰かの真似はできないんですが、どこかで影響は受けているわけで。そうした部分を払拭してもらって、無垢な感じでやってもらうのは大変でしたね。
——今回、池田秀一さんが再びシャアを演じるわけですが、その印象はいかがでしたか?
藤野 今回、池田さんが演じるシャアはちょっとしか出て来ませんが、池田さん自身も過去のシャアを演じるのは初めてですし、当然ながら過去編のキャストと一緒に演じるのも初めてだったんですよね。そういう意味では、ご本人もかなり前からアフレコ自体を楽しみにしていたみたいで、他の人から「いつからやるの?」と言っていると伝え聞いていました。やはり、新しい作品としてかなり期待していたんでしょうね。
——池田さんのシャアはいかがでしたか?
藤野 やっぱりすごいですよね。シャアという個性を彼が作り上げていると言っても過言ではないですから。そして、それをちゃんと演じ続けることができているというのも素晴らしいです。僕が関わった作品でも、シャア・アズナブルは『機動戦士Zガンダム』や『逆襲のシャア』で変わっているじゃないですか。そうした変化を的確に掴みながら、原点がここにあるという感じをちゃんと出していると思いますね。
——映像からキャストのみなさんが影響を受けたりはしていますか?
藤野 今回は、わりと絵が入っている状態でアフレコをすることができたのですが、とにかくアニメーションとしての仕上がりが素晴らしいんです。絵を描いている人たちのこだわりが伝わって来ましたね。そのせいか、表情をひとつ付けるにしても「絵に負けられない」という意識が演じるキャストにもあったと思うし、現場ではそんな力が入った感じも伝わってきましたね。そうした作画との相乗効果もあって、アフレコが終わった段階で、ようやく全体像が見えたと思いました。
——実際に、映像と音が合わさった状態を観られた感想はいかがですか?
藤野 素晴らしいとしか言えないですよ。新しい技術が導入されて、アニメーションとしてのリアリティが追求された映像に声が付くことで、見えてくる世界が全然違いますからね。海外のアニメだと、キャラクターをデフォルメして、実在するものから遠くなった感じの作品が多いですが、日本のアニメーションはもっと劇画的な、リアルなタッチを絵で見せようとしている部分がまだあると思うんです。そうした、日本独自のアプローチのリアルさみたいな部分は、演じる方にも影響を与えるわけですから、そこはじっくりと味わってほしいですよね。
——それでは最後に、藤野さんから観た本作の見所を教えてください。
藤野 ファーストには、名言や名シーンがあるじゃないですか。例えば「坊やだからさ」とか「君の父君が悪いのだよ」とか。そうした、ファーストでは細かく描かれなかった、言葉の意味がより鮮明に判る過去の物語となっていると思うんです。だから、ファーストを知っている方は、そうした部分を意識しつつ、初めてファーストの世界に触れる方は、あの伝説の作品の始まりが描かれるということで楽しんでもらえるといいのではないかと。
 それから、OVAとして製作されていますが、最初から劇場で観ることも意識して音響も作っていますので、やはり劇場で楽しんで欲しいですね。もちろん、自宅でもちゃんと楽しめるものではありますが、音響をちゃんと楽しめる環境は映画館には敵いませんから。ぜひ劇場で楽しんでほしいですね。
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