第12回
シャア・アズナブル役

池田 秀一


 今回のリレーインタビューは、TV版『機動戦士ガンダム』(以下、ファーストガンダム)以来、シャア・アズナブルを演じている池田秀一さん。
『THE ORIGIN』という作品にどのような感想を抱いて来たのか? そして、久しぶりに新作映像としてシャアを演じることに対してどんな思いを持っているのか? 36年間、シャアと共にあった歴史を踏まえて語っていただいた。
—— 今回、『THE ORIGIN』でのシャア役については、いつ頃オファーがあったのでしょうか?
池田 1〜2年前くらいですかね。実は、今回のシャアを演じるにあたっては、オーディションを受けたんです。自分で再びシャアができるのかどうか不安だったので。『機動戦士ガンダムUC』のフル・フロンタルは、シャアではない別人なので、新たに作れば良かったんですが、今回はシャアですからね。
「安彦(良和)さんの持っているイメージに応えることができるのか?」そういう気持ちはありましたね。オーディションは安彦さんの絵を見ながらやったんですが、シャアが僕に振り向いてくれるのか? そういう感覚を確かめたいと思っていたので、とりあえず聞いてもらおうと思ってやりました。僕の勝手な感覚としては、シャアもやっていいと言っているようだったので、やらせていただくことになりました。
—— シャアをもう1度演じるということに関しては、どんな思いがありますか?
池田 新鮮な気持ちはありますね。そうした新鮮な気持ちで臨まなければいけないと思います。それから、ちょっと気分としては高揚していますね。ただ、もう1回新たにやれるということは、前向きな気持ちでもあるんですが、こんな機会を与えてもらえたことを喜びつつ、すごいプレッシャーも感じています。
たまに優等生みたいなことを言わせてもらうと、やっぱり他人にシャアという役をもっていかれなくて良かったって今は思いますね。『THE ORIGIN』をアニメ化するということを知った時は、シャアが変わってもいいと思っていたんです。僕じゃないどなたがやってもいい。そう思っていたんですが、本当に他の誰かがやり出したら悔しいだろうし、自分がやれて本当に良かったです。
—— 今回の『THE ORIGIN』は過去編が映像化されるわけですが、過去の話ということで、どのような印象を持たれていましたか?
池田 コミックスが始まったのはもう15年近くも前なんですよね。当初拝見したとき、時系列が、ファーストガンダムと同じだったので、「安彦さんは何を思って物語をなぞっているんだろう?」と思う程度で、あまり真剣に読んでいなかったんです。もちろん、あとからちゃんと読んだらかなり変わっているのが判ったんですが、当初はそんな感じでしたね。そうした思いが大きく変わったのが「シャア・セイラ編」あたりからですね。彼らの過去をどう描いて行くのか、興味深く感じ始めて。例えば、ジオン・ズム・ダイクンは僕のイメージしていたものと違っていて、わりと揺れ動いた人物として描かれている。僕はもっと自信たっぷりの人だと思っていたんですが、そうではなくて、あまり立派な人ではなく、悩んでいる人だった。そういう要素がコミックスにありましたよね。社会背景的にも、自分たちが若い頃に見た学生運動のような雰囲気がありますし、ローゼルシアのような勇ましい考えの女性も実際にたくさん見てきた。そうした要素も含めて、過去編は客観的にすごく面白かったです。
—— 過去編を読まれた上で、今回シャアを演じる際に、これまでとは何かを変えようというような思いはあったりしましたか?
池田 そんなに変えようとは思っていないです。だから、今後お話が進んでもしかすると「認めたくないものだな」という台詞を言う時が来れば、それは皆さんのよく知る台詞になると思います。これから何本かやっていくわけですが、キャスバル・レム・ダイクンはどう演じるか判りませんが、シャアは変わらないと思います。
—— 今回、田中真弓さんが幼少期のシャア=キャスバルを演じているわけですが、映像で見られた感想はいかがでしたか?
池田 素敵ですよね。そう思います。この役はどなたがやっても難しいでしょうから。シャアの子供時代がどんなだったのかと言われれば、ファンが各々イメージを持っているわけですからね。だから、田中真弓さん本人にも、お会いした時に話をした際には「私でいいんでしょうか?」って仰っていたので、「いいんですよ」と話しておきました。絶対にあれでいいんだと思っています。
—— アルテイシアを演じるのは、潘恵子さんのお嬢さんである、潘めぐみさんですが、今回のアルテイシア役に関しては何かお話されましたか?
池田 僕は、彼女が高校生くらいから知っているんですよ。だから、まさかこんなことになるとは思ってなかったですね。当時はプロではなかったんですが、今は立派な声優になって。あの子がアルテイシアをやってくれるとは、不思議な縁ですよね。彼女も生前の井上瑤さんに幼い頃に会ったことがあるそうなので、何かしらの繋がりがあるもんですね。そうした繋がりで演じてもらえて、やっぱり嬉しいですよね。これから先、彼女がアルテイシアとセイラをやってくれて、一緒に演技をすることになるかと思うと、おちおちしていられないですよね。僕も負けないように頑張らないと。
—— アフレコの雰囲気をお聞かせください。
池田 僕は今回出番が少ないので、スタジオに行ったのも遅かったし、すぐに収録も終わってしまったんですよね。でも、収録スタジオの隣にキャストやスタッフが待つためのスペースがあったので、そこでしばらく見学をさせてもらいました。雰囲気としては、みなさん大変そうでしたね。最初はスタジオの中も静かで。普段なら世間話くらいは聞けるんだけど、そういうのも全然なくて。田中真弓さんも自分が主演の作品だと、現場の雰囲気を盛り上げたりするんですが、今回はあまり喋っていなくて。みんなピリピリして、いい緊張感に包まれている感じでした。そのせいか、僕もなんか緊張しちゃいましたね。
—— 久しぶりにシャアを演じてみた印象はいかがですか?
池田 今回、登場するシャアは大佐でも、少佐でもなくて、中尉なんですよね。だから、収録時にコメントを求められた時は「中尉という部分を注意して演じました。」というオヤジギャグ的なことを言っちゃいましたね(笑)。
 今回は、アフレコの際に絵がほとんどあって、やりやすかったですね。ファーストガンダムの冒頭で、部下になっているデニムとスレンダーが一緒にいるシーンが最初なんですが、そうしたつながりも含めて新鮮な感じでした。最近シャアを演じると、昔の映像にもう1度声を当てるというのが多かったんですが、今回は初めて観る映像という部分でも、なんか気分が新たになりますよね。そんな新鮮な安彦さんの映像に、僕が声を当てて新鮮なのかという不安はちょっとありますが(笑)
—— 第1話を通して観られた感想はいかがですか?
池田 良かったですね。ラストシーンに流れる歌も良い感じで。ちょっと大人な話ですが、ラストは前向きな印象にもなっていますし。あとは、ジンバ・ラルの描写が印象に残っていますね。ランバ・ラルがカッコイイだけに、お父さんが凄く間抜けな感じに見えて。ああいう親父さんはいるなって思うし、安彦さんがジンバ・ラルをあんな感じで描いているのがいいなと思いましたね。茶風林さんの演技も合っていたし(笑)。そういう意味では。それぞれのキャラクターの描き方も素晴らしくて、さっき言ったようなダイクンが悩めるキャラクターだからこそ、ザビ家が立派に見えるようにもなっていますから。
 今回は、かなり大人な話になっているんだけど、わけが判らないという感じではないんですよね。例えば『機動戦士ガンダムUC』でフロンタルが、いろいろと言いますが、あれは理解するのが難しいように語っているんです。でも、『THE ORIGIN』は判らないようなことは言わない、よく考えれば判ることを言っているんですよね。若い子たちには、そういう部分に気付いて欲しいし、食いついて来て、語りあって欲しいなと思いますね。
—— 第2話以降は、エドワウ・マスに名前を変えたキャスバルを演じるわけですが、シャアではなく、キャスバルを意識したりはしますか?
池田 シャアとは違う部分があると思うので、意識はしていますね。やはり、キャスバルがシャアに入れ替わるという部分があって、そこがうまく演じられるかが第一関門だと思っていますので。そして、キャスバル・レム・ダイクンをいつ捨ててシャアになるのか? 母の死がそのきっかけになるわけですが、そのあたりの演じ方がポイントになりそうですよね。
本物のシャアと入れ替わる前のキャスバルの違いをどう見せるのか? まだ先の話ではあるんですが、そのあたりが大変そうなので、今からいろいろとやり方を考えています。
—— 第2話以降、本格的な活躍が楽しみです。では、最後にファンに向けてメッセージをお願いします。
池田  本当に、まだしばらく皆さんにお付き合いいただくことになると思いますが、付き合っていただくのに恥じない作品になると思いますので、懲りずに付いてきていただけると嬉しいです。
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