第37回
プロデューサー

谷口 理


『シャア・セイラ編』の完結と『ルウム編』の始まりにあたって、関係者リレーインタビューの初回に話を伺った、オリジンスタジオの谷口 理プロデューサーが3年ぶりに再登場。足かけ3年を費やしてきた第4話までの作業、そして新たな意気込みでスタートする第5話以降のプロデュースの方向性に関して、映像の裏側に込められた思いやスタッフとのやりとりを伺った。
—— 3年前にお話を伺った時は、まだサンライズでお仕事を始めたばかりという感じでしたが、その後実務に関わった感想はいかがでしたか?
谷口 自分自身は、メカが出てくる作品に関しては、『機動戦士ガンダム 第08MS小隊』で監督をされた飯田馬之介さんの『タイドライン・ブルー』という作品で制作進行の経験をしました。プロデューサーとしては『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』(以下、『THE ORIGIN』)がメカものとしては初のプロデュース作品になります。当初はいろいろと大変かと思っていたのですが、実際に関わってみると作業としてはそんなに他の作品との違いはありませんでした。ただ、SF考証や設定量の多さには驚きました。今回は、SF考証に鹿野(司)さんが、軍装装備デザインに草彅(琢仁)さんが入るという感じで、プロフェッショナルの方、その道に対して、本当に詳しい方に頼まなければいけないという作品になっています。それから、宇宙世紀の時系列や歴史考証をすごく気にしなければいけない。「この仕組みはOK」とか「この技術はNG」というガンダム世界の考証の部分をとても重要視しなければならなかったという印象が強いですね。
 『ルウム編』では、『シャア・セイラ編』以上にメカの描写が多くなるので、背景も兒玉(陽平)さんに加えて、ムサイやサラミスなどの艦船の艦橋、甲板、艦内などのレイアウト原図にメカのデザイン寄りの緻密なディテールを入れるために、宮本 崇さん(『コードギアス 亡国のアキト』のメカデザイナー)に参加してもらいました。以前から美術監督の東(潤一)さんとレイアウト原図にディテールを足せる方に参加して貰おうと相談していたんですが、メカデザイナーの要素がかなり必要ですのでなかなか適当な方がおらず、メカデザイナーのカトキ(ハジメ)さんに相談したら宮本さんを紹介していただいたという経緯があります。宮本さんのおかげでディテールが細かくなりましたが、背景の方々には苦労させてしまっています。
—— 足かけ3年かかった『シャア・セイラ編』の4話分をやり遂げた感想はいかがでしたか?
谷口 終わったから言えることですが、思いの外短かったですね。やっている最中は、「あと2本もある」と先の長さを意識したりすることもありましたが、終わってみると、もっと沢山やれることがあったのではないかと感じるところもあります。宣伝的な部分から画作りに関してまで、良いところと悪いところがあるなと。具体的にどこが良くて、どこが悪いのかという言及は避けますが、悪いところを潰せば完璧な作品になったということではなく、そういう凹凸があってのこの作品としての仕上がりであり、それは結果として受け止めながら、『ルウム編』を手掛けているというところですね。
—— 総監督の安彦(良和)さんとは別の、プロデューサーという立場でクオリティやスケジュールの線引きをしなければならず、その判断も外の作品に比べると『THE ORIGIN』はなかなかシビアだったのではないですか?
谷口 動画枚数で言うと、第1話と第2話が約25000枚、第3話と第4話が約30000枚くらい使用しています。これは、予算通りで収まっています。カット数や尺数に関しては、安彦さんのこだわりが増えて尺をオーバーしそうになるのですが、それでも900カット以内に収めることができて、そこから逆算して1ヶ月でスタジオで生産できるカット数や枚数も話数を重ねるたびに、見えてきた部分もあり、第4話までは計算がしやすかったですね。それに比較すると、第5話以降は計算が難しいです。ファンの皆さんは、これまでと同じスケジュールでやって欲しいと思っているはずですが、物量も増えるしクオリティも上げなければならない。今まで通りというわけにはいかなくて、やはりハードルが上がるんですよね。そういう部分で現在は苦労しているところはあります。
—— 制作スケジュールに関しては、『THE ORIGIN』はかなり優秀だと言われていますよね。
谷口 そう言われているようですね。それはみんなの頑張りのおかげであり、ある程度余裕を持った計算をしている結果でもあります。そして、一番の功労者はやっぱり安彦さんですね。何しろ、コンテの上がるスピードが尋常ではなく速い。通常の作品で最も困る部分というのは、やはりシナリオやコンテや設定がいつ出来上がるかというところにかかってしまうのですが、安彦さんが早く仕事を上げるから、その下で作業している現場のスタッフもそれに引っ張られるわけです。メインスタッフである演出家も作画監督も真面目で優秀な方ばかりなので、毎日コンスタントにクオリティも落とさずに淡々と作業をしていくという形だったので成果が出ているということですね。
—— 安彦さんと現場の信頼関係に関しても増していると思いますが、プロデューサーという立場から見て、安彦さん自身の仕事への向かい方もかなり変わって来ているのではないですか?
谷口 そうですね。以前は、音楽関係などはほぼ任せるという感じだったのですが、今では「エンディング曲の歌詞の一部が気になるから変えたい」とか、そうした部分にも意見をいただくようになりました。最初はアニメ業界に久しぶりに戻ってきたという感覚だったのが、最近ではそういう感覚ではなくなっていますし、現場を理解して広範囲にいろいろと意見を言ってもらえるようになってきたことで、楽しくなっている部分が多いのではないでしょうか。印象的なことを言えば、第4話にガンキャノンの鉄騎兵中隊の隊長のエルドゥシュは、オリジンスタジオにいる海外から来たスタッフがモデルになっているのですが、それを提案したのは安彦さんです。それから、第4話冒頭の回想シーンに登場するダイクンの胸像のCGも、展示用に作られた胸像を3DでスキャンしてCG処理でうまく見せられないかという案も安彦さんによるもので、そういうちょっと変わったことを思い付いたらどんどん言ってこられる姿勢には毎回驚いています。CGの作画に対してもかなり信頼をしていて、現場の方を尊重して関わられています。第3話までは、音楽や音響に関してなどは今西(隆志)さんが打ち合わせをして作業していたのですが、第3話以降は、安彦さんや演出の方に意見を聞かなくてはならなくなり、安彦さん自身も関わり方という部分で変わらざるを得なかったのだと思います。そういう意味では、漫画の連載も『ヤマトタケル』だけになり、力の注がれ方も変わって来ているので、アニメーションへの本格復帰という感覚に近いかと思いますね。
—— 今西さんが降板された第4話以降は、安彦さんへの比重が増えたわけですが、現場のシステムの変化などはありましたか?
谷口 第4話で参ったのが、メカシーンに関してですね。月面のスミス海で、ガンキャノンの鉄騎兵中隊とラル、シャア、のちの黒い三連星のジオンのモビルスーツが戦うところですが、安彦さんからカトキ(ハジメ)さんにコンテをお願いしたいと言われました。その時は、カトキさんが別の作品で忙しくて無理でしたが、それがきっかけで第5話ではカトキさんにコンテを頼もうという話に繋がりました。第4話のメカシーンは、安彦さんが「僕はメカシーンがあまり得意じゃないから」と言われていたところを、スケジュール的なこともあったので最終的には安彦さんに描いてもらっていて、その結果、安彦さんが4話通して初めて全編コンテを描くことになりました。あの時、カトキさんがコンテを手掛けたらもっとマニアックになって、違う意味で面白かったのかなとも思いますね。
—— 絵コンテのお話が出たので伺いたいのですが、安彦さんの絵コンテに関しては、どのようなやりとりを経て最終決定に至っているのですか?
谷口 安彦さんから絵コンテが上がってきた段階で、演出家と作画監督にチェックしてもらいます。その際に欠番にするカットや尺の長さなど、変えた方がいいと思う部分を言って欲しいと伝えてあります。自分からも「今、カット数がオーバーしているので、50カット削って欲しい」と希望を出したりします。それは安彦さんも望むところで、その作業に関しては第1話からずっとやっています。安彦さんの絵コンテに対して、例えば疑問を持ったまま作業することになったとしたら苦しむのは演出家や作画監督なので、安彦さんにきちんと「こっちの方がいいのではないのか?」という機会をわざと作ったということですね。そうしたやりとりをした後は、自由にやってもらうと。ですが、時々、安彦さんから「これは元に戻したい」と言われることもあります。
—— 各カットに関する吟味も、しっかりとコンテ打ち合わせでやられているということですね。
谷口 そうですね。第5話は、安彦さんをメインにカトキさんと演出の江上(潔)さんが絵コンテを作業しているのですが、かなり改稿を重ねています。2人が描いた絵コンテに関して、安彦さんが「あれはこうした方がいい」、「もっとこうして欲しい」と希望を言われた部分もありますし、カトキさんのコンテチェックをしていた時に江上さんが注文を出したのに対して、江上さん自ら絵コンテを手掛けてもらうよう僕の方から言ったりと、コンテの完成に向けてはかなり熱く語りましたね。
—— そういう意味では、第5話は相当密度が上がっていそうですね。
谷口 安彦さんもそうですが、カトキさんが密度を高めてくる人なので、そうした影響は大きいです。第1話のアバンで登場したドズルがワルキューレから指揮を行うシーンが再び出てくるのですが、見せ方も含めて全部変わっています。美術設定も実際の艦艇のように、艦内を狭く設定し直すことでリアリティを高めていますし、アフレコに関しても実際の戦闘は淡々と冷静な命令を出すような演出にしたりと、軍事的な考証をよりしっかりとする方向に寄っています。今のガンダム世界は軍事というかミリタリー的な要素もしっかりと描くことが重要ですので、そこはメカデザイナーの方の意見なども取り入れて、かなり本格的な感じになっているかと思います。
—— オリジンスタジオという制作チームを指揮するという部分で、意識をされていることはありますか?
谷口 サッカーのチームと同じで、長く一緒に仕事をしていると馴れ合いが出てきます。停滞しているなと感じていたので『ルウム編』からはチームを壊さないといけないと思っていました。壊すというのは、メンバーの入れ替わりや補強を行うということです。第4話から第5話へ移る際、大きな補強はやはりカトキさんですね。チームとしては大補強だと思います。個人的にはサッカーチームで言うところだと、すごくお金を支払ってチームを変えるくらいの補強をしなければと思っていたので、そういう補強はできましたね。4本の映像を3年という周期で作るという環境だからこそ、そうしたスタジオというチームの運営的な部分を考えることができた作品でもあります。短い作品だと、1クール、2クールをこの戦力でどう乗り切らないといけないかということを考えるわけですが、関わる期間の長さ的にも、本当にサッカーチームの運営を考えているみたいです。僕自身、こんなに長い作品は初めてですから。普通のテレビシリーズは、2クールや4クールを1年かけて作るという感じですが、すでに4年目に突入しているわけで、そういう変化も必要だという思いはありますね。個人的な感想ですが、『THE ORIGIN』は第1話の時の作画が大好きなんです。みんな自信を持ちきれずに、ヒヤヒヤしながら、どこが「完成」としていいラインなのか判らない。手探り感で作っているのが見えるのがいいのですよね。今は、慣れてしまった部分が多いので、緊張面という面ではなんとかあの第1話のように戻したいと思います。スタジオ自体も固まったメンツで、鎖国しているような感覚に陥っているので、ちょっと壊さなくてはならないという気持ちが強くありまして。メインスタッフはスライドしていくので、そこをどう補強していくか。そこで、カトキさんが中心になっているのですが、みんなが、カトキさんが何をやらかしてくるのだろうと思っているところがあって、その緊張感はいいですね。
—— 中でも、CGに関しては関わる部分が大きくなりますね。
谷口 カトキさんが描いている絵コンテは、CG制作を行っているD.I.D.スタジオが大きく関わりますから、不安もあると思います。ただ、今まで以上のものを作るのだというところをD.I.D.スタジオも判ってやってくれていいますし、CGプロデューサーの井上(喜一郎)さんを中心に、新たに長嶋(晋平)さんがCGディレクターに近いポジションで関わって、CGモデルの見せ方からモデル自体を見直しながら作業していますし、そちらに関してもいい刺激になっていると思います。
—— 一方で、ガンダム作品=関連商品を売るというような部分も命題になるわけですが、そのあたりの考え方についても教えてください。
谷口 第4話まではモビルスーツの活躍も少なく、バンダイホビー事業部の人たちも商品を出したくてもなかなか出せない状態だったので、頭を悩ませながら一緒にやっていたという感じですね。今、ガンプラに関してもMSD(Mobile Suit Discovery)の展開を含めて、いろいろ出来るようになりましたが、もっとコンテンツを拡大できるようになるのは今後だと思います。ホビー事業部との関係をはじめ、パッケージ制作をしているバンダイビジュアル、配信をしているバンダイナムコライツマーケティングという部署と足並みを揃えながらやることは、他の会社ではなかなかありえないですし、ガンダム作品だからという部分での経験は大きいですね。普通のプロデューサーレベルではここまでやらないかもしれないですが、これは自分が成長するいい機会だと思っていろいろとやらせていただいています。
—— 現在、サンライズでは他のガンダム作品も同時進行的に制作されていますが、それらのガンダム作品を意識されていますか?
谷口 最も意識したのは『機動戦士ガンダムUC』ですね。もともと安彦さんがキャラクター原案で入っている作品ですし、『UC』の最終話には『THE ORIGIN』の映像を付けさせてもらったりしているというところも含めて、、『UC』に続く大作として『THE ORIGIN』があると思っていたので気になりました。やはり、『UC』は、あれだけヒットした作品ですし、すごいクオリティで作られているので、違いを出しながら安彦フィルムをどう作るかという部分では意識していますね。また、『UC』は若い世代にも支持されているので、あのファン層はどうやって手に入れたのか? それをどう手に入れるのかが命題というところでもあります。それがなかなか手に入らないので、難しいなと思います。
—— 新たにスタートする『機動戦士ガンダム Twilight AXIS』も谷口さんがプロデュースされているのですよね?
谷口 『Twilight AXIS』もオリジンスタジオで制作しています。Ark Performanceさんと一緒に作品を作りたいという話があり、そこで、当初は映像があまり動かない「ピクチャードラマ」で作ろうという方向も検討されていたのですが、僕はどうしても納得がいかなくて。同じ手間暇をかけるなら動かしたいという考えでやっています。『Twilight AXIS』はもともとお付き合いのあった金(世俊)さんに監督を務めてもらい、メカ関係の作画監督に阿部(慎吾)さんという30代の方が中心に、『THE ORIGIN』とは違ってすべて手描きのアニメーションで作画してもらっています。時代的に『UC』に近いし、新しいモビルスーツもいくつか出す、新しい雰囲気の作品をめざしているという感じですね。『THE ORIGIN』を担当したおかげで、谷口のところでまだガンダムを作れるでしょうという感じで、同時進行的に制作させていただいています。
—— 『ルウム編』に関しては、どのあたりが見所になりますか?
谷口 いくつかありますが、やはり古谷(徹)さんや古川(登志夫)さんの出番が増えるのは大きいですね。一年戦争がもう目の前という感じですから。また、艦隊戦に関しても、どう見せるべきかみんなで研究しています。ビームの出方から形状、CGモデリングも全部見直しているので、第1話のアバンとはかなり違う雰囲気で、より密度のあるものになっているので。あとは、後半のシャアが活躍するカットに関しては、今回初めて安彦さん自ら20カットくらい原画を描いています。さすがに現場のみんなも盛り上がりましたね。その他にも、第5話から劇場アニメーション『夜は短し歩けよ乙女』の総作画監督の伊東信高さんに、向こうの仕事を終えてから参加してもらっているのですが、安彦さんの漫画のテイストがアニメにそのまま入っていることをすごく褒めてくれました。他の劇場作品の総作画監督から、うちの総作画監督が褒められるというのは、すごく嬉しいですよね。あと、コロニー落としのシーンのメカ作画は、Production I.G.のメカデザイナーである竹内(敦司)さんと江面(久)さんというスーパーアニメーターの方に作業していただいていますので、シーンとしては短いですが、かなり見応えのある、いい感じに仕上がっています。今回から劇場の公開館数も増えますので、ぜひ劇場の大画面でコロニー落としを味わって欲しいです。
—— では、最後に『ルウム編』を待つファンにメッセージをお願いします。
谷口 『シャア・セイラ編』の第4話までお付き合いいただき、ありがとうございました。第5話、第6話はかなり力を入れていますので、一緒に盛り上がっていただければと思います。その盛り上がりと共に、皆さんが期待している「その先」が作れたらいいと思っているので、まずは第5話、第6話の『ルウム編』をよろしくお願いいたします。

リレーインタビュー連載、次回は編集の吉武将人さんが登場。編集のお仕事についてお話を伺います。
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