宇宙世紀事始め Ⅲ その2
「暁の蜂起」

 U.C.0077——。
 サイド3、ジオン自治共和国で一部の士官学校の学生達が引き起こした一大事件が勃発する。
 ガーディアン・バンチに駐屯する地球連邦軍の一個連隊が、学生隊の蜂起によって奇襲され武装解除されたのである。
 翌朝に予定されていたズム・シティへの治安出動を未然に粉砕したといわれるこの事件は、熱狂的な歓喜をもって共和国の市民達に迎えられた。
 英雄的快挙を成し遂げ、指揮官として名を馳せたのはガルマ・ザビ。
 ザビ家の末弟で、共和国議長デギン・ソド・ザビの寵愛を一身に受けていた御曹司であり、ジオン自治共和国国防軍士官学校の3回生だった。
 事実は多少、歪曲されて喧伝されるものである。それが故意か、はたまた偶然にせよ。
 指揮官として学生隊に指示を出したのはガルマだったが、実際にはそのガルマを煽動した者がいた。

 シャア・アズナブル。
 ガルマと同期の士官学校3回生でルウム出身の青年は、教科実技いずれもAクラスという優等生であり群を抜く資質を持っていた。
 そのシャアが、連邦軍兵営を制圧するための作戦を立案したという。

 作戦目標は、サイド3、ガーディアン・バンチに駐屯する地球連邦軍の一個連隊。
 その兵営と演習エリアを挟んで隣接していた位置に士官学校は建設されていた。
 およそ攻撃を受けるはずがないという無警戒な兵営には、常時一個連隊が駐屯し、うち一個大隊が既にズム・シティに治安出動していた。
 残りの大隊は二つ、その士卒の数、約2000人。
 シャアとガルマと共に決起した3回生は200余名であり、彼ら学生隊は自身の10倍の敵を制圧する必要があった。

 夜半に決行された奇襲作戦は、事前にシャアが非合法に入手した駐屯地の見取り図にそって実行された。
 中央管理塔の連隊本部をA、兵舎の2ブロックをそれぞれBとC、管理棟を挟んで反対側に位置する兵器庫と銃器格納庫をD群として、シャアは攻撃目標に設定した。
 この攻撃と同時にドッキングベイ(宇宙港)も制圧して外部からの介入を阻止する必要があった。そのための人員も割き、さらに士官学校校長ドズル・ザビを監禁して学生隊への中止命令などが出せないようにしなければならない。
 ドズルの監視役は、3回生のゼナ・ミアに任された。ゼナは卒業時の席次8番の優秀な女学生で、その人選も事前にシャアが考案したという。

 先鋒として出撃したのはシャアのランドムーバー隊だ。
 空中から兵営上空へ侵入し、寡兵だが、先行して連邦軍駐屯地に潜入、敵陣の攪乱を任務とした。ランドムーバー隊はシャア隊の他にも構成され、背面に重力下用ランドムーバーを装着、腰には自動小銃収納ケースを携行、バズーカを把持する者もいた。
 後続した自走重迫撃砲隊と8輪装甲車隊が、ガルマの指揮で出撃する。
 この出撃の様子をゼナの訪問を受けた直後のドズルが目撃することになるのである。
 ガルマ隊が射撃ポイントに到達した時点で、シャアは攻撃開始を命じる。
 かつて履修した模擬戦の要領で、攻撃目標のA、B、Cを砲撃したガルマ麾下の重迫撃砲隊は効力射による着弾点の修正も怠らない。
 左翼に展開した部隊がD群を制圧すると、兵器庫に火が入った。さらに8輪装甲車隊から歩兵が出動、進撃を続けるなか、Aの司令塔にも砲撃が命中していく。
 ガルマはシャアに司令塔への突入を命じた。
 一方、連邦軍の中央棟で司令する連隊長は、反撃に61式戦車の投入を命じる。
 その戦車の奪取をリノ・フェルナンデスに命じたシャアは、単身で司令塔に突入すると、作戦指揮管制室に到達。遂に連邦軍連隊長を確認すると武装解除を要求するのだった。

 暁に終結したこの学生隊の蜂起は、のちに「暁の蜂起」と呼ばれることになる。
 指揮官はガルマ・ザビ。だが、作戦に参加した多くの学生達はシャアの活躍を目撃し、その功績であると密かに認めていくのである。
PREVNEXT