第21回
撮影監督   撮影監督補佐

葛山 剛士 × 飯島 亮(前編)


 アニメーション作品の制作作業の中で、映像的な部分で最後の仕上げとも言える作業を担う「撮影」。エフェクトや空気感など、映像としての雰囲気を作り出すポジションであり、その作業のディレクションを行うのが撮影監督である。『THE ORIGIN』だけでなく、これまで数多くのガンダム作品で撮影監督を担当してきた葛山剛士さんと、撮影監督補佐として共に作業に携わった飯島亮さんに、「撮影」という仕事について2回に分けて話を伺った。前編では、アニメ制作における「撮影」の作業の基本について語ってもらった。
—— 『THE ORIGIN』にはどのような経緯で関わることになりましたか?
葛山 プロデューサーの谷口理さんからお声がけをいただいて参加することになりました。これまで『機動戦士ガンダムSEED』から『機動戦士ガンダムUC』まで、ずっとガンダムタイトルの撮影監督をやってきたという経緯がありまして、『THE ORIGIN』も関わるようになったという感じです。ちなみに、私の所属する旭プロダクションという会社としては、『THE ORIGIN』のCGのセクションの一部もお手伝いさせていただいております。旭プロダクションは、元々は撮影から始まった会社ですが、現在はデジタル関連から映像の企画・制作まで幅広くやっています。
—— 今回は、撮影監督補佐の方も参加されていらっしゃいますね。
葛山 弊社で何かしらのタイトルを担当する際は、撮影監督ともう一人補助的な人間を立てるようにしています。仕事の内容としては、撮影監督自身が監督からお話いただいたものを動かす際に、劇場作品やテレビシリーズとなるとこなさなければならない物量が多くなってしまうので、それらのフォローをしてもらっています。補助と言っても、飯島も他の作品では撮影監督をやっているレベルのスタッフです。今回は、たまたま私から一緒にやって欲しいとタッグを組ませてもらいました。
—— ある意味、撮影監督が2人いると思うと豪華ですね。
葛山 そうですね。そこに関しては、『THE ORIGIN』という作品は、私1人では物量的に不安だったので、彼がいれば何とかなるかなと。ガンダム作品はずっとやってきているから分かるのですが、やはり他の作品とは違うんです。かなりの物量になることが分かっていたということから、撮影監督クラスの飯島を入れてもらい、2人で相談しながらやるというスタッフィングにしました。
—— 『THE ORIGIN』のお話があった時は、どのように思われましたか?
葛山 漫画原作だと一年戦争を含むかたちでエピソードが膨大なので、当初アニメ化されると聞いた際は、「全部をやるとなるとかなりの物量になるな」とちょっと怖じ気づいていました(笑)。今回は「シャア・セイラ編」ということですが、それでも安彦良和さんのコミックスということを考えると大作であることは間違いないですし、それをどう自分がアニメの映像として表現できるのかという部分でプレッシャーはありましたね。また、感慨深さもありました。
—— 漫画原作の『THE ORIGIN』は読まれていたのですね?
葛山 社内にはやはりガンダムが好きなスタッフがいますので、彼らがコミックスを買っていたというのもあって読ませていただいていました。
飯島 私は自分で買っていました。
葛山 趣味的な部分で読んでいたというよりは、仕事の一貫として読んでいた感じです。業界に入る前は、ガンダム関連作品が好きで、プラモデルも買っていましたし、アニメも観ていたのですが、自分でガンダムの仕事に関わるようになるとなかなか関連のマンガを読んだり、アニメを観たりすることもできなくってしまいましたね。とは言え、ガンダム関連でもいろんなタイトルがあるので、そのあたりは常に情報を集めています。
—— 撮影という仕事について詳しくお話をお聞きしたいと思うのですが、現在はデジタルで作業されているのですよね?
飯島 そうですね。完全にデジタル化されていて、基本的にはパソコンに向かって作業しています。
葛山 昔は、撮影台という、カメラが上からぶら下がっている機材があって、そこにセル画と紙の背景を重ねて、本当に「撮影」をしていました。現在は、アフターエフェクトというソフトなどを使って、素材を合成していくのが撮影の仕事となっています。昔の素材は、それこそ紙の背景とセル画だったんですが、現在はそれらをデータとして取り入れたもの、さらには『THE ORIGIN』だとCG関連のデータも素材としていただいて、それを合成していきます。私は、フィルムで撮影していた時代も知っているのですが、やり方は全然違いますね。もちろん、デジタルとフィルムではメリットとデメリットがそれぞれありはしますが、機材のメンテナンスやセル画やフィルム代なども含めたコスト面をはじめ、デジタルにした方が、メリットが大きいのは確かです。
—— 修正などもやはりメリットは大きいですか?
飯島 修正は、デジタルの方が断然やりやすいですね。
葛山 かつての修正は、セル画を切り貼りするなど、素材を直していましたが、今は画像加工ソフトでいくらでも直せるようになったので、そのメリットは大きいですね。場合によっては、足りない部分を自分で描いたりすることもできますし。とは言え、修正がいくらでもできるということは、時間をとられるということでもあるのでそのあたりの難しさもあります。
—— 時間的な短縮もされているのですよね?
葛山 フィルムの時は撮影したものを現像しなくてはならないという、物理的な時間が必要でしたが、デジタルは現像がいらないですから、本来ならその時間に余裕ができるはずなんですが、その分ギリギリまで作業してしまうということはあります。また、デジタル撮影の方が1カットあたりの撮影に使う時間が短いので、かなり効率的にはなっていますね。『THE ORIGIN』ではかなり時間をいただいて撮影をさせていただいているのですが、それは凝った画作りをする時間を含まれているのですよね。通常のテレビシリーズになると、撮影には2〜3日しか使えないので、大変さという意味ではあまり変わらないかもしれません。
—— 撮影という作業では、当時のセル画や背景素材をスライドさせたりカメラを寄せてクローズアップしたりと、実際に動かしながら撮っていたと思いますが、そうした技法的な部分も大きく変わっているんですか?
葛山 よく言われる、カメラをパンする、作画を動かす、スライドするという作業も、アフターエフェクトを使うことでできるようになっています。カメラの動きなどに関しては、演出や監督の方で指定されたガイドというか、設計図みたいなものがあるので、それに沿って動かすことになっているんですが、それはフィルムの時に台を動かして撮影していたのでやっていることは同じですね。作画と背景がレイヤーに分かれていて、それぞれをソフト上で動かしているという感じです。デジタルでは、ソフトが自動的に補正してくれたりするので効率も良くなってきていますね。また、いわゆるエフェクトに関しても撮影の方で作って入れているのですが、デジタルによってやれることが多くなった反面、作業も増えています。
—— 素材を合成させて、どのように動いているかという仕上がりもすぐに確認できるのですか?
葛山 できます。撮影したものをレンダリングして納品して、そこから編集されるのですが、レンダリング前にプレビューで観ることができます。プレビューで観ながら、カットがきちんと仕上がっているかどうか観るわけですが、演出意図を優先させるようなカットの場合は、監督や演出の方に撮影会社の方に来て貰って、一緒にプレビューを観てもらったり事前にテストムービーをチェックしてもらい、意図と違えば調整するというようなことをします。昔だと、現像してみないとどんな風に仕上がっているか分からなかったです。だから、色パカ(塗り間違い)が多かったです。現像してからリテイクしても間に合わないですからね。今は、デジタルになったので色のミスをプレビューで発見すればすぐに直すこともできます。そういう意味でも、デジタルはメリットが大きいですね。
—— 基本的なことですが、撮影監督はオペレーターに指示を出すだけでなく、ご自身で撮影もされるのですか?
葛山 撮影監督によって違うと思いますが、スタッフで手分けしつつも、私自身もソフトを使って1カットずつ撮影作業はします。もちろん、2人でやっているわけではなく、オペレーターに作業をしてもらいつつ、チェックをしたり、納品に向けたフィニッシュワークの編集枠を作ったりしています。
—— 撮影監督という立場は、そうした作業に加えて、仕上がりのディレクションもしなければならないのですね。
葛山 そうですね。必ず全カットを見て、カットの繋がりや演出や監督のオーダーがちゃんとそこに取り込まれているかというのを確認しながらやっています。素材の不備があれば制作の方に伝えて素材をもらえるようにお願いしたり、管理的なことも2人でやっている感じです。
—— 実写での撮影では、照明などは専門の方が画面の明るさなどを調整してくれますが、アニメでもそうした調整は撮影時に行ったりするのですか?
葛山 それは作品によりますね。『THE ORIGN』に関しては、ライティングやレンズを絞って撮影するようなことはしていませんが、どうしても必要な部分では、ライティングの調整などもやっています。例えば、実写では画面に照明効果によるフレアが入ったり、スポットライトを当てたりする照明の仕事も、アニメでは全部撮影の仕事になります。
—— そのあたりの、レンズや照明などによる効果は、監督や演出の意見を聞きつつ行われるわけですよね。
葛山 撮影打ち合わせという場が設けられて、その場で絵コンテをもとに「ここは逆光にしたいからバックライトを当てて欲しい」、「ここは日差しが強いので入射光による光の帯を入れてください」、「ここはしんみりしたシーンなので、キャラの手前に黒いパラ(撮影用語:画面に影を落としたりグラデーションをつけること)を入れて絞って欲しい」というような要望を聞いて、実際にそれを撮影で反映させるようにします。具体的にそうした処理に対して、どういった素材が必要かというのを確認して、撮影に必要なものを揃えてもらうようオーダーさせてもらうこともあります。ただ、デジタルになってからはソフト上で何でもできるようになってしまったので、お任せされることが多いですね。ただ、お任せというのはなかなか難しくて、ある程度信頼関係のできた演出や監督さんだと多くなるわけで、お互いどういう人か分からない場合は、どういう画作りが好みなのか相談しながらやっていくことが多いです。『THE ORIGN』の第2話の演出を担当している原田奈奈さんは、10年くらい一緒にお仕事をしているので、指示がなくてもこちらでいろいろ対応できているという感じですね。とは言え、やはり意図をしっかりと聞いておかなければならないので、撮影打ち合わせをやった上でなければ、本編の撮影には入れないです。
—— 作品ごとに違うと思いますが、『THE ORIGIN』は他のガンダム作品と比較すると撮影処理に関してはどのような特徴がありますか?
葛山 『機動戦士ガンダムSEED』や『機動戦士ガンダム00』は、監督の意向でモビルスーツにもキャラクター的な要素を入れるような質感的な処理をしていたんですが、『THE ORIGIN』に関しては『機動戦士ガンダムUC』に近い感じで抑えめの撮影処理になっています。なるべくあざとくならないよう、撮影のエフェクト処理などが主張しないように考えて撮影しています。
—— ガンダム作品は、それまでのシリーズを見慣れているファンと新規のファンというところで、撮影処理を変えたりしているんですね。
葛山 ターゲット次第ではあると思いますが、私のような年齢からガンダムに入る人もいれば、小さいお子さんが大人の方と見始めることもありますよね。『機動戦士ガンダムAGE』は子供向けということで、撮影処理も意識したりもしていたので、作品によって違ってきます。『THE ORIGIN』では、安彦さんや演出の方たちがどうしたいのかを汲んで決めているという感じです。「ガンダムだからこうしなければいけない」ということはなく、むしろタイトルごとに大きく異なっていると思います。

 次回は、より『THE ORIGIN』という作品に寄った形で、「本編でどのような撮影が行われたのか?」、「どのような部分が苦労したのか?」など、具体的なシーンを交えて語ってもらいます。
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