第22回
撮影監督   撮影監督補佐

葛山 剛士 × 飯島 亮(後編)


 『機動戦士ガンダムTHE ORIGIN』(以下、『THE ORIGIN』)において、撮影監督を担当する葛山剛士さん、撮影監督補佐の飯島亮さんへのインタビューの後編。今回は、CGとハイクオリティな作画によって紡がれる『THE ORIGIN』だからこその、撮影作業におけるこだわりや苦労した点などを、実際作業前後の画像と合わせて語ってもらった。
—— 今西(隆志)監督や演出の方から、「『THE ORIGIN』ではこのようにしてほしい」という撮影に関するオーダーはありましたか?
葛山 『THE ORIGIN』は、近年のガンダム作品とは違って、時代描写に古い印象があると思います。そこで、オリジナルである『機動戦士ガンダム』における演出的にはあざとい部分を、『THE ORIGIN』でも残して行きたいといわれました。そのため、フレアや爆発などの「光モノ」と言われるエフェクトは、『機動戦士ガンダム』を意識してきっちり見せるようにしています。そういった見せ方は、作風によって変えているんですが、今西さんからは昔のテイストを出すようなオーダーがあったので、『THE ORIGIN』に関してはアナログさを出しているのが特徴だと思います。
—— 確かに、エフェクトなどは『機動戦士ガンダム』の頃の映像に近い感覚はありますね。
葛山 特に今西さんは「光モノを綺麗に光らせたいのではなく、記号として見せたい」としきりに仰っていたんです。『機動戦士ガンダム』では、爆発光などでよく判らない十字の光が頻繁に出ていたりしていたのですが、それをデジタルで綺麗に見せるというわけではなく、ある程度チープさのようなものを残したいと。ただ、やりすぎると作画とCGのマッチングが難しくなるので、そこを考慮しながらやるのが今回は大変でした。
—— 撮影に関して、ビーム光やモノアイの動きや光り方など、オリジナルの『機動戦士ガンダム』での見せ方を踏襲しようという動きはありますか?
葛山 色味や設定などがあるので、そこに準じなければならないところもあるのですが、どうしても昔の作り方はアナログで技術も発展していない状態であり、やはりテレビシリーズなどは今見直すとキツイ部分もあります。それを、いかに現代的に慣れている目で見て、当時っぽさを感じさせつつ綺麗に見えるようにするかという部分の苦労もありました。『THE ORIGIN』が始まる前に、爆発のテストをしたことがあったのですが、その時は単に綺麗に光らせるのではなく、『機動戦士ガンダム』でよく行われていた手描きのエアブラシ的な表現を再現できないかという話にはなりました。そうしたやりとりを進めて、作品の特徴付けをしていった感じですね。
—— 苦労したシーンはいくつかあると思いますが、いくつか例を挙げて教えていただけますか?
葛山 第1話の後半で、アルテイシアが宇宙に母親のアストライアをダブらせて見るシーンでは、濃いフィルターや薄いフィルターを併用して情感を出して欲しいということは言われましたね。そこに関しては、私たちの考える善し悪しもあるので、監督や演出の方に「こんな感じでどうですか?」と見せて、そこにさらなる意見を貰う感じで詰めていきました。そのせめぎ合いを行って折衷案を見出すこともあれば、何テイクも重ねて正解に辿り着いたりすることもあって、やはり決定までには時間がかかることが多いですね。
—— 安彦(良和)さんの漫画原作を尊重するからこその撮影効果などもありますか?
葛山 それもありますね。これも第1話のラストシーンになりますが、シャトルがコロニーから発進した際に、丸い光が流れるシーンがあるんです。安彦さんからは「丸い光が見える」と言われたようなのですが、監督も演出もそれが何の光なのか判らない。コロニーからの照り返しのようなものが窓越しに映っている表現だと思うのですが、そうした抽象的な表現を具現化するのは苦労しますね。そういう部分も演出の方々と相談しながら撮影をしていきました。
—— ガンダム作品として『THE ORIGIN』が他の作品よりも大変だったところはありますか?
葛山 ガンダム作品では、作品ごとにそれぞれ要望が違うんですよね。例えば、「宇宙ではコントラストを強くしたい」という作品があれば、『機動戦士ガンダムUC』のように「宇宙空間ではフォロー(移動する被写体をカメラが一緒に動いて視野に入れ続けること)をしないで欲しい」というのもありました。『THE ORIGIN』に関しては、どうしてもCGのメカと手描きのキャラクターが出る作品なので、1本通して観たときに違和感がないように馴染ませなくてはならないというのがあります。色の調整や、モビルスーツや戦車などの巨大なもののカットから、キャラクターのバストアップに切り替わったときのマッチングなどはなかなか難しかったですね。本来ならば、カメラで言うレンズを変えないと収まりが悪かったりもするので、細かい部分まで考えるとキリがないです。そこに関しては、普通の作品と比べるとガンダム作品は大変ですね。人間的な描写を撮影した次に、モビルスーツがビーム・ライフルやビーム・サーベルを使うシーンを撮らなくちゃならないので、頭を切り換えつつ、うまく繋がって見えるかも考えなくてはならないですから。
—— 確かに、シーンが切り替わった時に、観ている側に違和感を与えないようにしなければならないですからね。
葛山 モビルスーツは巨大なので、いかにそれを巨大に見せるかがポイントになります。撮影に関しては、素材を撮るというところで、どんな効果を入れて巨大感を出し、迫力のある映像にするかを考えなければならないですから。例えば上の方のピントを合わせずにモヤらせるとか、そうした処理を入れなくてはならないので大変ですね。
—— これまでのガンダム作品は、メカもキャラクターも手描きであることが多かったと思いますが、メカがCGになったからこその苦労などはありますか?
葛山 今までは、メカとキャラクターの両方を描ける人が、両方が登場するカットを描いていたりしていたのが、CGになると完全に別のセクションになるので、合成した時に少しでもレイアウトが狂ってしまうとパースがおかしいというようなことが起きてしまいます。そういった意味では、質感的なマッチングもそうですが、パースがズレないような位置調整もやるようになりました。
—— 具体的には第2話のモビルワーカーのシーンなんかが、CGと手描きの合成になりますね。
葛山 あのシーンに関しても、単に切り分けて作成するわけじゃなく、やはり連携が必要なんです。CGの方でガイド出しという、実際にモーションを付けたものを作画の方に渡して、それを出力して紙の状態にするんです。それに合わせて、アニメーターさんがキャラクターを描いて、またCGの方に戻してマッチしているか確認。問題がなければ、最終的に背景とCGとガイドを出して作った作画を撮影で合成します。こうした面倒な工程を経ることで、ズレが生じないようにしています。
—— CGは、ライティングによって面の光り方が違ったりすることがありますが、そことキャラクターの色味が異なったりすることもあると思いますが、そうした対処も撮影がされるのですか?
葛山 そうですね。少しでもライティングがズレていたら、演出や色彩設計の方と相談しつつ、少しフレアを強くしたり、レンズの絞りを調整して馴染ませたりします。そういう微調整も我々の仕事ですね。
—— そういう作業の時には、飯島さんの意見を聞かれたりもするのですか?
葛山 そうですね。互いに意見を出し合うことで、調整に関する突破口が見えてくるので。自分だけで作業をすると、客観的に観ることができなくて、上手く撮れているか、作れているかが不安になることもありますし。そういう意味では、撮影監督レベルの人間が補助についてくれると助かります。
—— 『THE ORIGIN』の撮影で、思い入れのあるシーンはありますか?
飯島 第2話のキャスバルとアルテイシアを追う鎧の刺客のシーンはわりとこだわりましたね。
葛山 飯島さんが苦労して、使い込まれた鎧の質感を貼り込んだりしていましたね。そういう細かいディテールアップをすることで、映像のリアリティアップに繋がっていきますので。鎧の表現に関しては、かなり特殊な表現を取り入れることで、錆や古ぼけた印象を表現することができていますね。
左が撮影前の作画スタジオが仕上げた素材。右が撮影用の処理が加わったもの。撮影処理が入ることで、鎧の古びた印象が強まっているのがわかる。
—— 葛山さんはどのシーンに思い入れがありますか?
葛山 第1話のルウム戦役のところですね。爆発なんかも、CGの方で作られたものに対して、フレアを足したり、ちょっと派手に見せるように調整をしています。戦艦の爆発シーンもブレや光の露出を調整して撮影しています。苦労しただけあって、良い仕上がりになったと思います。今後もあの手のシーンが増えていくことになりますし、ガンダム作品はそこに良さがありますからね。ああいうシーンを楽しみにしている方が多いはずなので、労力を厭わずに仕上げていければと思っています。
—— 手間がかかったというシーンはありますか?
葛山 その他ですと、第2話のキャスバルとアルテイシアの別れのシーンは、すごい数のレイヤーで構成されています。CGの葉の動きや木の動きをそれぞれ作っていますし、撮影もそれに合わせて多重に奥行き感が出る素材が必要になるので大変でした。背景の美術もサイズが大きかったですし、雰囲気を出すためにフィルターをキャスバルとアルテイシアには強めにかけたりもしていますし。CGさんの力に加え、作画もすごい動画枚数で動いていたので、それをマッチングさせる撮影も大変でした。そういった意味ではいい映像になったと思います。
飯島 素材が複雑なので、単純に手間が多かったですね。
葛山 撮影の時間も通常の5〜6倍くらいかかっています。
—— 撮影に関わることと言えば、「特殊効果」(以下、特効)というエアブラシなどで特殊な効果を入れる方がいらっしゃったと思いますが、『THE ORIGIN』では、特効にあたる方はいらっしゃるのですか?
葛山 旭プロダクションには特効のセクションがあり、監督や演出、我々撮影監督から必要な箇所や、特効を入れないと絵が保たないところにいれるようお願いしています。『THE ORIGIN』では、特効の数も多くて、1話あたり100カット近くありましたね。ちょっとした小物などにも使っているので。
飯島 一方で、メカはCGになったので、そちらでの特効の使用はなくなっています。
葛山 カットによって撮影処理が違いますからね。鎧の刺客は撮影でやっていたんですが、部屋に置かれている銃やイスなどの質感表現には特効が入っています。分かり易いのは第1話のガンタンクですかね。被弾したモデリングデータはないので、そこだけ作画をおこして、汚しのブラシを入れてもらいつつ、撮影処理で煙などが入って表現しています。そのあたりは社内で連携して作っている感じですね。
—— 撮影としてのメカの表現に関しても、『THE ORIGIN』は特殊な部分はありますか?
葛山 『機動戦士ガンダムSEED』や『機動戦士ガンダム00』などは、最新兵器だからピカピカなんですよね。作風としてその見せ方は間違っていないのですが、『THE ORIGIN』ではリアルなメカの質感を意識して撮っています。だから、あまりあざとく光の干渉を入れて質感にテカりを入れてしまうと、重厚感がなくなってしまうんです。そういう意味では、これからはメカ描写も増えて行くのでテストを重ねて見せ方をより研究していかなければならないなと思います。例えば、第1話の冒頭部分では、3Dで作っているのですが。今後は2Dと3Dのハイブリット的なものが発生する可能性もありますので、そこを違和感なく撮るにはどうしたらいいかなど、こちらもテストを重ねる必要はありますね。
—— 撮影監督という立場から見た『THE ORIGIN』とは、どんな作品ですか?
葛山 作画やCGに関してはすごく豪勢な作りをしている作品です。撮影の観点からすると、素材が来て合成するとなった場合、動画の枚数にしてもCGの物量にしても、何層にも構造が分かれているのでそういう部分では豪華ですね。タイトルがメジャーなだけに、各セクションも力をフルに発揮して集まっているなという実感はあります。それをちゃんと綺麗に撮らないといけないという部分では、撮影としてもプレッシャーはありますね。各セクションがこだわって作ってきたものということで、撮影にも時間をかけさせてもらっていますし、物量やクオリティ的に見ても劇場版以上とも言える作り方の作品になっています。
—— 第3話をはじめ、今後の撮影的な見所を教えていただけますか?
葛山 戦闘シーンが増えて行くので、そこに関してはCGさんからの素材を楽しみにしながら、撮影の方も豪華にエフェクトをやっていきたいですね。あと、キャラクターの心情表現も注目して欲しいです。『機動戦士ガンダム』もヒューマンドラマ的な要素が強かったので、『THE ORIGN』でもそういった人間模様などのシーンも雰囲気を考えながら、喜怒哀楽が伝わる撮影処理を心がけたいと思っています。
飯島 第3話では、後半に戦闘シーンが多くなるので、そのあたりが見所になると思います。現在作業中なのですが、素材的にも面白いものが来ているので仕上がりを楽しみにしてもらえればと思います。
葛山 今回、戦闘服は迷彩模様になっていて、貼り込みにかなりの手間をかけています。他の作品でも迷彩服を着ているものがありますが、それらはCGや作画の方が工夫していることが多いのですが、撮影として処理させてもらっています。ミリタリー描写的な部分にかなり手間をかけていますので、そこは必見です。

左は撮影前の状態。手前のシャアだけでなく奥の兵士まで迷彩部分は色によってどの模様が入るか指定されている。右は撮影後の画像。戦闘服に迷彩の模様が入り、さらに撮影処理によって遠方のピントが甘くなることで遠近感が強調されている。

 リレーインタビュー連載、次回は軍装装備デザインの草彅 琢仁さんにご登場いただきます。
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